『巨人の見る夢』
「君、進撃の巨人って読んだことある?」
コーヒーの香りが漂う薄暗い喫茶店で、そんな質問を突然投げかけてきたのは、大学の同期だった佐久間だった。彼は昔からちょっと変わっていた。ガラケーを未だに使い続けてるくらいだから、まあ、その「変」の度合いが分かるだろう。
「読んだよ。完結までちゃんと」
「じゃあ聞くけどさ、あの話って結局、自由ってなんだったんだろうな」
カップの縁を指でなぞりながら、佐久間は続けた。
「エレンはさ、自由のために戦ってたはずなんだ。でも最後、彼がやったことって、巨人になる以上に巨大な枷を作っただけだったんじゃないかって。皮肉だよな、進撃の巨人ってタイトルなのに、自由を得るどころか、歴史の連鎖を加速させたんだから」
こいつ、たまにすごく核心を突く。
「まあ、それでも誰かがああいうことをやらなきゃ、何も変わらなかったのも事実だけどね」
僕はぼそっと返す。佐久間は頷いて、角砂糖を三つ、躊躇なくコーヒーに落とした。
「結局さ、巨人ってメタファーなんだよな。恐怖とか、過去の罪とか、あるいは記憶の重さとか。で、それらに立ち向かうのが“進撃”なんじゃないかって。単純なバトル漫画に見せかけて、実は個人と国家、記憶と責任の話をしてる。ほら、伊坂幸太郎の小説にもあるじゃん。過去の罪をどう背負うかってテーマ」
僕はふと思う。あの物語はエレンだけじゃなく、読者全員に「選択」を突きつけてくる装置だったんじゃないかと。歴史を知って、どうするか。怒るか、赦すか、利用するか。マーレもパラディも、根本は似ていた。恐怖に駆られて攻撃し、過去に縛られて未来を壊した。
「で、君はどう思うのさ」
僕の問いに、佐久間はちょっとだけ笑ってから、言った。
「もし僕らが壁の中にいたとして、超大型巨人が壁を壊した瞬間、“これは伏線だ”って気づけるくらいの余裕があれば、きっと世界はもう少しマシだったんだろうなって、そう思うんだよ」
彼の言葉に、笑っていいのか、ちょっと迷った。
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