40 忘れたい/忘れていた大雨のあの日
父親が、静かに言った。
「あの日。朝陽が
実家の窓を、強い雨が打ちつける。
ときおりピカッピカッと光り、雷鳴も聞こえる。
断片的な記憶が、朝陽の中に戻ってきた。
映像のように鮮やかに――。
*
場面は変わり、夕雨の部屋。
薄暗い照明の下、夕雨は映画『ジュリー&ジュリア』を見ていた。
テレビの中では、カップルが激しく口論している。
気づけば、そのカップルの顔が、自分と朝陽に変わっていた。
まるで記憶の中の再生だった。
――「あほらし。お前の評価なんて、偽物ばっかりだよ。上っ面だけの」
――「どういう意味?何が気に入らないの?」
険悪な部屋の外では、大雨が降り、雷鳴が轟いている。
――「コネで取り上げてもらって何が嬉しいの?お前なんか、顔がいいだけの客寄せパンダだよ。」
――「それは……あんまりだよ」
静かに言い返した夕雨に、朝陽はさらに怒りを募らせ、手にしていた新聞を床に叩きつけ、部屋を飛び出した。
しばらくすると、外が騒がしくなり、夕雨はあわてて外に出た。
――螺旋階段の下、朝陽が倒れていた。
降り止まない大雨の音も、絶えず聞こえる雷の音も、何も聞こえなくなった。
叫ぶ声も出なかった。
世界が、止まったようだった。
*
そして再び、朝陽の実家。
父親は続けた。
「朝陽が退院して、復学できて、進級して。朝陽が回復していくと、手紙は少しずつ減っていったよ。」
母が言った。
「でもまた最近増えたのよ。」
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