39 真実

母は少し微笑んで、それからゆっくりと話し始めた。


「あの子、まだ気にかけてくれてるのね」


「どういうこと?」


母親は静かに口を開いた。


「入院してたとき、何度かお見舞いに来てたよ。でも、朝陽が混乱して暴言を吐いて……私が、つい『もう来なくていい』なんて言ってしまったの」


「……知らなかった」


朝陽の胸がずきりと痛んだ。


「それからも、何度か手紙をくれた。あなたの様子を気にして、ずっと」


母親は、奥の引き出しから、小さな箱を持ってきた。その中には、色とりどりの封筒がぎっしりと詰まっていた。


「これ、全部……?」


「うん。夕雨さんからの手紙」


朝陽は震える指で一通を手に取った。


《手術が成功したと聞いて、うれしかったです。》


一通、一通と手を伸ばして開いていく。


《とにかくまずは栄養をつけましょう。ちゃんとご飯を食べられてるなら、ひとまず大丈夫です。》


《少しずつ歩ける距離が伸びてますね、すごいです。陽子さんも、お疲れの出ないように。》


《どうかお気を落とさないで。時間はかかりますが、いつか笑って話せる日が来ます。そうなったら、きっと朝陽くんも、陽子さんに感謝するはずです。》


涙が止まらなかった。


「夕雨は……どうして……?」


「あの日のこと、彼女は自分のせいだと思ってるんじゃないかな」


父親が、静かに言った。

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