第5話

学校は、とにかく煩い。今日は特にそうなのが、余計に苛立ちを感じさせた。

 インターネット。sns。現実も、今は全部が騒がしくて、この状況の話題で持ち切りだ。声と視線が苦手な自分からしてみれば地獄の様な状況である。


「(頭痛くなってきた...)」

 今日、要件だけ済ませたら早退しよう。心の中でそう決めてしまう。


 嬉しい事に、授業は自習。教科書はこの異変を記した物に新しく作り変えられ、教室は色んな感情が行き交うだけだ。


「ねぇプエラ、楽しみじゃない?」

「....まぁ、うん。テスト内容も増えるだろうし、やってらんないよ。」

「あー...テスト。たしかにそうだ。」


裏を怪しむ者、解明したい天才達、何も考えず状況を受け取るその他大多数。愚かだと笑うべきだろうか?それとも少数が捻くれて居るのだろうか?


自分はこの状況をどう思って居るのだろう。


 第三者として、永遠に外から見て何も決めれない人間より、どんな意見でも状況を考える人間であった方がマシだ。


「プエラはワクワクしないの?」

「まだ受け止めきれて無いのかもね。ノースは楽しそうじゃん。」

「当たり前だよ。プエラは...なんか安心してるみたいな?表情だよ。案外受け止めて割り切ってるんじゃない?」


「....そう見える?」

「見えなかったら言わないでしょ。」


教科書を捲りながら、安心しているのか?と自問する。

 残念ながら、心当たりならあった。


 世界が水に呑まれた事により、自分の姿を見る機会が多くなる。教室の窓に映る自分。それが大嫌いだった。

 人間とはかけ離れた左目。鏡で言うと右になる。白い髪にこんな目。平凡とはお世辞でも言えない見た目が嫌いだ。


「(皆と同じ様に、進化できてよかった。)」

 大多数と同じになれない苦い感覚を味合わなくて済んだから。だから安心してるんだ。


「....気付いたの?」


心の中で合点がいき納得すると、ノースがそう呟く。気づかせてくれたのだから、知る権利はあるか。

「っ、はは...ただえさえ異常者ぶってる特徴が増えなかった事に安心してるだけ。」


「僕は、プエラの目綺麗だと思うよ。...万華鏡みたいで、作品みたい。」


「あっはは、何それ。流石モテる奴の言う事は違うなぁ。」

捻くれた意見に返す言葉としては綺麗過ぎると笑いが込み上げる。

 ノースは嘘つかないけど、これについてはもうちょっと自覚しないと刺されそう。


「...もう、人が励まそうとしてるのにねぇ。」

「ごめんって。皮肉に付き合ってくれてあんがとねノース。」



 その時、ちょうど鐘がなる。机横にかけてた鞄を持って人を掻き分けて教室を出る。

 「さようなら」と誰かに言う事は無く、足早に学校から出て行く。


 学校の売店で買った大きめのペットボトルの冷たさと重さが手のひらに残って居る。

「(昔は両手で持ってたのにな。)」


道中は、お昼時なのもあって人が普段より多かった。何と無く息苦しさを感じる。


ふと目に付く。学校行く前に見た山。

 視線の網から抜け出せれるセーフゾーン。頭痛と体の怠さが無くなる所。

「(どうせ施設までどこかで休憩しないとって思ってたし、小学生以来行ってないし..)」


心の中で長ったらしく言い訳して、体は引かれる様に歩を進めてしまった。

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