第14話「君のうんこは食えない」

五日目。

新ルール二日目。



参加者たちは、今や“交渉”で生き延びる世界にいた。


「俺の、食ってくれよ」

「お前の、俺にくれ」

「……交換な。今だけ、な?」



生き残るには──

「誰かのうんこを手に入れ、食うこと」

それだけが絶対条件。



うんこを“出す”ことは、

ただのバーター材料に過ぎなかった。



そんな中、

参加者番号11番・野中(24)は焦っていた。



彼は、今日もちゃんと出した。

食べやすいように調整までした。

だが──誰も彼と交渉しなかった。



「なぁ、頼むよ……俺の食ってくれたら、明日お前のも食うから……」

「昨日のだって、そんなに悪くなかったろ……?」



誰も返事をしない。

誰も、彼の袋を見ようともしない。



そして──野中も、誰のうんこも得られなかった。



日没10分前。

他の参加者たちはすでに誰かの袋を手にしていた。

噛んで、飲み込んで、生存を確定させた。



だが野中だけは、袋を持っているだけだった。

食うべき“他人のうんこ”が、手元にない。



「……なんで……」

「俺、ちゃんと、やってるじゃん……」

「ちゃんと出して……ちゃんと声かけて……」

「それでも……俺だけが、いらないのか……?」



日没確認。

「参加者11番、摂取未達成」

「処理を開始します」



野中は、誰の名も叫ばなかった。

ただ、悔しそうに自分の袋を見つめ、呟いた。


「……結局、食わせてもらわなきゃ、生きられないんだな……」



ドグシュッ!!


股間から音がして、野中は崩れた。


袋は未交換のまま、手から転がった。



「本日の処分:1名」

「摂取未達成による処理を確認」



松本がモニターを見ながら笑った。


「ええな……」

「“うんこ出せる人間”が死ぬ構造、これが一番エグいんや……」

「助けてくれ浜田……今日もええ死に方やったわ……」

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