第13話「誰も俺を選ばなかった

四日目、日没直前。



新ルール初日。

「自分のうんこは食えない」

「1人に“食わせる相手”を指名しなければならない」

「誰にも指名されなかった者は、処分される」



静かに、淡々と、参加者たちは指名を終えていった。

中には笑顔で交渉していた者もいた。

「俺、お前の食うからさ、今日はお互い様ってことで」



それでも、1人だけ──誰にも選ばれなかった者がいた。



参加者番号22番。

男。名前は覚えられていない。

3日間、派手な行動はなかったが、ルールは守っていた。

いつもうんこは出していた。

だが今日、誰の口にも、その名は上がらなかった。



日没10分前。

彼はまだ、自分が選ばれていないことに気づいていなかった。



袋を両手で抱きしめながら、周囲を見渡す。

どこかで誰かが手を挙げてくれると思っていた。

だが──誰も、彼の方を見ていなかった。



スピーカーが無機質に告げる。


「参加者22番──指名ゼロ」

「日没5分前──再集計中」



彼は、震え始める。


「……いや、まだ……誰かが忘れてるだけだろ……」

「俺……昨日もちゃんと……出したし……」

「……何かミスなんじゃ……?」



だが、指名は更新されなかった。



日没1分前。


彼は袋を抱いたまま、ひとり立っていた。

誰にも言葉をかけられず。

誰の輪にも入れず。



「……なんで……」

「なんで……誰も……」

「俺のこと、見てくれなかったんだよ……」



日没確認。


「参加者22番、未指名により処分対象」

「処理を開始します」



彼は泣きながら言った。


「お願いだ……誰かのうんこを……食わせてくれよ……」

「俺……まだ死にたくないんだよ……!!」



ドグゥゥゥッ!!!!!


その言葉を最後に、彼の股間が爆発した。



袋は地面に転がった。

未使用のまま。

生き残る誰かの口に入ることは、なかった。



「本日の処分:1名」

「未指名による淘汰、開始されました」



校庭は静かだった。

誰も泣かなかった。

誰も、彼の名を思い出せなかった。



松本はモニター越しに呟いた。


「ええな……これや……」

「助けてくれ浜田……全員、怯え始めとるわ……」

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