第15話「調律者たちの深夜会議」

五日目の深夜。

校庭は眠りにつき、袋を抱えた参加者たちの寝息が風に混じっていた。



運営棟、モニタールーム。

大画面には、数十のカメラ映像が同時に並ぶ。

便器のそばで眠る者、袋を抱いて泣きながら寝ている者。



その光景を、スプーンでアイスをつつきながら眺めていたのは──


中居くん。



「いや~今日もええブツ出てたダベッ?」

「袋の光沢とか、粘度とか、そういう演出もちゃんとしててプロ意識高いダベッ?」



モニター奥、照明の落ちた暗がりの椅子で脚を組んでいるのは──


松本。



「アホくさ……」

「“食えればいい”ってとこまで落ちてきたら、もう人間ちゃうわ」

「助けてくれ……浜田……ワシの中の倫理が溶けとる……」



中居くんはくるっと椅子を回しながら言った。


「でも、死に方はおもろかったダベッ?」

「今日のやつ、“最後まで袋手放さんかった”の、ポイント高いダベッ?」



そのとき、部屋のドアが開く。


白いワンピースの女が入ってきた。


ショートカット、サンダルの音。

誰もその名を呼ばない。



彼女は、スクリーンを見て言った。


「……みんな、うんこを“選ぶ”ようになったわね」

「とってもとってもとってもとっても……♪」


一瞬、声が揺れた。

だが誰も突っ込まなかった。



中居くんが首をかしげる。


「そろそろダベッ?恋愛要素とか入れた方がええダベッ?」

「“好きな相手のを食べたいのに、他の誰かに取られる”とか、えげつなくて最高ダベッ?」



松本は眼鏡を外しながら呟いた。


「そうやな……今までは“食う・食わされる”やったけど、これからは“選ばれたけど選ばなかった”の地獄、見せるべきや」

「推しうんこ、裏切りうんこ……ええ響きや」



女は静かに微笑み、呟いた。


「とってもとってもとってもとっても……ねぇ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る