第10話「甘い腐敗とアイドル神話」

三日目の朝。



女たちが壊れかけていた。


昨日、白いワンピースの女が排泄し、

男たちがそれを奪い合って貪った光景。


「……あれが“青春”なの?」

「男ってほんと……なんなの……」

「……でも、私たちだって……出さなきゃ、食わなきゃ……」



誰もが黙って便器を見つめていた。


袋の数は足りていない。

食う勇気も、もはや残っていない。



そのときだった。


スピーカーが告げる。


「特別排出イベントを開始します」

「本日は特別ゲストの排泄をご提供します」



ゆっくりとゲートが開き、

そこから現れたのは──


中性的な美男子。


金髪、白い肌、完璧な骨格。

K-POPアイドル然とした美貌。


校庭は、ざわついた。



「えっ……」

「うそ……誰?あの子……」

「てか、顔……小さっ……」



その美青年は何も言わず、

中央の金属製灰皿の前にしゃがみ込んだ。


動作は静かで優雅だった。



そして、ゆっくりと排泄した。


音はなく、香りは甘かった。


周囲がどよめく。



「成分検査完了」

「排出対象:健全。摂取可能」



沈黙のなか、最初に動いたのは**番号21番・佐倉(19)**だった。


小さな声で呟く。


「……私……あれなら……食べられる……」



誰かが笑い出した。


「いやマジで……香水みたいな匂いする……」

「……これ……ありじゃない?」

「てか普通に……推せる……」



灰皿を囲むように、女たちが集まり始める。


「ちょっと私先に食べるから!!」

「順番守れってば!!」

「キャーッ!!近くで見ると肌も綺麗ッ!!」



スプーンが奪い合われる。


袋が足りない。

でも、誰もがその瞬間を逃したくなかった。



男たちは、遠巻きに見ていた。


「…………また、か……」

「今度は……女が……壊れたな……」



誰かが吐きそうになって、口を押えた。


でも、食わなければ死ぬ。

今日もまた、“摂取”は義務だった。



スピーカー:「摂取反応、複数確認」

「摂取者、生存継続」



美青年は何も語らず、立ち去った。

微笑みだけを残して。



誰も、彼の名前を知らない。

でも、誰もが推し始めていた。

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