第11話「停滞の島」

四日目の朝。

校庭には、爆発音が響かなかった。



「本日の摂取者:全員確認」

「排除対象:なし」



運営サイドのスピーカーは、それだけを伝えて沈黙した。



誰も死ななかった。



原因は明白だった。


参加者たちは、うんこに慣れてしまったのだ。



味?もう気にしない。

臭い?麻痺した。

吐き気?克服した。



「……てか、割と腹持ちいいしな」

「出す側もさ、日替わりで回せば余裕だよな」

「最初に比べりゃ、こんなん全然マシだわ」



初期の悲鳴と嘔吐、そして爆死が嘘のように──

校庭には穏やかなサイクルが流れていた。



便器の前で談笑する者たち。

袋を交換しあう者たち。

「今日のやつ、やわらかくて食いやすかったわ」とレビューする者たち。



地獄は、“慣れる”。



そして、

この状態に最も焦っていたのは──運営側だった。



「全然死なねぇな……」

「絵が弱ぇんだよ最近……」

「このままじゃ盛り上がらねぇ……」



その声は、観察室の暗闇の中から聞こえた。


モニターには、うんこを手渡し合うパンツ一丁の男女が映っていた。



「これは……“地獄の島”じゃない……」

「ただの“うんこに順応した共同体”だ……!」



そこへ、スーツ姿の中居くんが入ってきた。


いつもの軽薄な笑顔ではなかった。


「このままじゃ、“物語”にならないダベッ……」



沈黙の後、誰かが囁いた。


「ルールを……変えますか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る