第5話 神崎さんのレッツ・クッキング




 結城と話した日の放課後。今日はバイトもないので、ダラダラアニメでも見ようかなと考えていた時だった。


 隣の部屋から再び電話の声が聞こえてきたのは。


『もしもし、あかりさん』

『やっほー、まいやん。今日は彼と進展はあったかい〜?』


 さっそく俺の話題にドキリとする。


 聞くのは悪いと思いつつも、薄い壁ゆえにどうしても耳に入ってきてしまう。外に出ようかとも考えたが、彼女が電話を始めるたびに外に出るのも面倒くさいのだ。


 ……いや、すみません。全部、建前です。本当は俺がどう言われてるのか気になって仕方ないだけです! 許してください!


 俺が心の中で弁明している間にも、神崎さんと結城の話は続いていく。


『はい。朝に少しだけお話ししました。いつも通りかっこよくて最高でした』

『うっは〜! 熱いね〜〜!』

『しかも……なんと今日は彼と至近距離で見つめ合ってしまったんです。本当に、本当に……ドキドキしました』


 神崎さんの一ミリも変化しない表情を思い出す。……本当にドキドキしてたのか?


『そうだ、まいやん。耳寄り情報だよ! 真島っちは、甘いものが結構好きらしい!』


 ん⁈ 俺、そんな話したっけ?


『その情報はどこで?』

『真島っちに飴をあげた時に、甘いものは好きな方って言ってたの! ちょっと恥ずかしそうに口ごもってたから、きっと結構好きなはずだよ!』


 結城の言葉に、「あの時か……!」と合点がいった。もしかして神崎さんにこの情報を渡すために、わざわざ飴を渡してきたのか? 女子ってすごいな……。

 というか、恥ずかしそうに口ごもってたとか冷静に分析されるの恥ずかしい。


『まいやん。私に、真島っちを落とすためのいいアイディアがあるんだ』

『聞かせて下さい』


 神崎さんが食い気味に言葉を発する。


『真島っちに手作りの甘い物を作って、渡してみよう! 家庭的なところをアピールして、胃袋も心もガッツリ掴もう作戦だよ!』

『あ、あかりさん……』


 ゆ、結城……。

 なんとも古典的な方法なんだ。いや、女子から手作りのものを貰えたら嬉しいけどさ。わざわざ「いい方法」なんて言うから、もっとすごい作戦があるのかと思った。


 これはさぞ神崎さんも呆れていることだろうと思ったのだが……。


『あかりさん。あなた、天才ですか……⁈」


 バカしかいないのかな?


『それじゃあ、今晩さっそく作ってみます。甘いものを』

『じゃあ、オススメのレシピのURLを送っておくね』

『何から何までありがとうございます』

『いいってことよ!』


 その後、すぐに神崎さんは通話をやめたようだった。俺は謎の緊張感から解き放たれて、ほっと息をついた。この後はアニメに集中できるかなと安心した時だった。


 ガッシャーンと隣の部屋から大きな物音が聞こえてきたのは。


 その後もドンドンドンドンと何かを強く切り刻む音や爆発音、ドタバタとかけまわる音が響く。時々『痛……っ』という声も聞こえてきて、隣の部屋にいる俺はハラハラする。


 ……果たして、神崎さんのお菓子作りは上手くいってるのだろうか。


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