第6話
――遠くから、何かがこっちに向かってくる気配がある。
「……やっべ、またやったか」
感情をぶちまけるために叫んだつもりが、まさかまた魔獣を引き寄せるとは思わなかった。しかも前よりも足音が重い。明らかにでかい。
振り返る。丘の向こうから、茂みをかき分けて黒い影が一つ――いや、二つ、三つ。
「群れ!? うっそだろ、もっと段階踏めよ!」
さすがに素手で複数相手は無理だ。せめて武器があれば――。
「そうだ、ナイフを作れるはず……!」
ケンタはすぐさまアイテムウィンドウを呼び出し、さっきの狼から得た素材を確認した。牙が一対。クラフトスキルが“初級”になった今なら、条件は満たしている。
「クラフト、ナイフ作成!」
手のひらを広げ、牙を素材に選択。すると、視界にウィンドウが浮かび上がる。
『オートマチック操作でナイフを作成しますか?』
オートマチック操作?いやそんなことより。
「なんでもいいから早く作ってくれ!」
今こうしている間にも狼の群れは迫ってきている。前回は一対一でも危ない場面が多数あったのだ。群れとなんて戦いたくないが、戦うならせめて武器が欲しい。
『クラフトを開始します』
⸻
【クラフト成功】
《牙刃のナイフ》を生成しました。
品質:低
効果:切れ味中/耐久低/軽量/魔素干渉
⸻
掌に、純白の骨のようなナイフが現れた。持ち手は滑らかに整形され、刃は短いが鋭い。
「よし、これなら――!」
言い終えるより早く、最初の魔獣が飛び出してきた。原付くらいの体躯で目は血走り、牙はむき出し。どう見ても、ただの野生動物ではない。
ケンタは息を呑み、地を蹴った。前の戦いと違って、今回は手に武器がある。恐怖はあるが、それ以上に――
(いけるかもしれない)
刃が敵の毛並みに触れる。シュッと空気を裂いた音と共に、浅くではあるが確かに傷が入った。
「マジで切れる……!」
前は拳を振るうのが精一杯だった。だが今回は違う。ナイフがあるだけで、こんなにも戦える幅が違うとは。
狼の魔獣は動きが速かったが、先ほどのレベルアップの影響か、体がほんの少し軽い。足が地に馴染み、動きの軌道を予測しやすい。反応速度も、自分のものとは思えないほど冴えていた。
(これがレベルアップの恩恵か……!)
今までは全力で振りかぶることすら困難だったが、ナイフを持つ手が無駄なく動く。敵の動きに合わせ、数度の斬撃を加える。
「はああっ!」
牙のナイフが、魔獣の喉元をかすめると、深く赤の線が走った。魔獣も負けじとケンタの腕に噛みつこうとする。ケンタは踏み込んで、左へ身をかわし――
「ッらああッ!」
ナイフを振り抜いた。
短く、乾いた音が響き、魔獣の前脚が裂ける。
たったそれだけで、あの凶暴な獣がよろめいた。
「っは、いけるぞ……!」
驚きと共に、興奮が体を駆け巡る。
この手にあるナイフが、俺を生き延びさせた。
「武器って、やっぱスゲェ……!」
息を切らしながら、ケンタは動きを止めなかった。敵の懐に潜り込み、もう一度、狙い澄まして牙を突き立てる。
ガンッ――骨に当たった感触。
痛みと共に手がしびれるが、構わず押し込んだ。
「これでッ、終われッ!」
魔獣が悲鳴のようなうめき声をあげ、崩れ落ちる。
ケンタは大きく後ろへ飛び退いた。
「っは、はは……やった、一体倒したぞ……!」
震える手でナイフを握り締める。肩が上下に波打ち、汗が滲む額をぬぐった。
「はぁ……はぁ……!」
肩で息をしながら、ケンタは周囲を見回す。残り二体。だが、その一体が倒れたことで警戒したのか、後ろへと引いていく。
「逃げるか……? いや、様子見か?」
気は抜けない。だが――少なくとも、前みたいに死にかけるだけの状況じゃない。今のケンタには武器がある。
ナイフを手に、ケンタは静かに構えた。
「来るなら来いよ。今度は、こっちにも武器がある」
獰猛な瞳でケンタが挑発する。本人は気づいていないがこれではどちらが獣かわかったものではない。そんな圧にあてられて、二体目、三体目の魔獣は、慎重にこちらの様子をうかがっていたが――ついに、茂みの奥へと姿を消した。
「……逃げた、のか?」
全身に緊張を張りつめていたケンタは、気が抜けたようにその場にへたり込んだ。
「やっぱ慣れるもんじゃあねえな」
と言いつつ口角が上がっていることに彼は気づいていないが。
「さてドロップアイテムの確認と行きますか」
すでに骸は消え去り、複数のアイテムだけが落ちていた。
「毛皮、牙、魔石は同じで、これはなんだ?」
毛皮や魔石までは前回倒した狼と変わらないものだったが、今回は何か追加で落ちている。それは無骨な銀色のネックレスだった。今のケンタには確実に似合わないが。
「鑑定」
⸻
【銀のネックレス】
銀製のネックレス。純度は約九十五%。
⸻
「これはお金の匂いがするぜ」
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