第6話

 左頬にぽつぽつと冷たいものが当たる感触で意識を取り戻した俺は、うっすらと目を開けると、辺りはすっかり灰色になっていて、雨が降り始めているのがわかった。体中の痛みを感じながら両手をアスファルトに押し付けて身体を起こそうとする。ズキズキとした痛みが、雨の降るアスファルトの路上で熱せられるように激しくなっていき、俺は顔を歪める。ようやく身体を起こした俺は、辺りを見回すが、さっきのホームレスはすでにいなくなっていた。フロントライトの点いた車が隣の車道を行き交っているが、俺はそれらの風切り音を背後に感じながら、ふらついた足取りでその場を後にする。

 雨が強くなってきた。このまま雨に打たれ続けていたら、風邪をひいてしまうかもしれないと、俺は雨宿りをできる場所を探したが、入り口に屋根の付いたコンクリート製のビルが見えて、俺はその入り口に入った。しかしそこの入り口の屋根は狭く、雨が斜めに吹き込んできて身体を濡らしてしまうため、俺はビルの中に入ることにした。ビルの中に入ると狭い通路にこれまた狭い階段があって、俺はそこを上って行った。風に吹きさらしの外に比べるとビルの中は多少は暖かく、傷んだ身体を癒してくれるかのようだったが、それでも気温は低く、俺の気分は悪かった。もっと奥に行けば暖かくなるかもしれないと、俺は通路を進んでいくが、その突き当りに不思議な扉があった。

 扉は、全体が真っ黒で、ドアノブも黒色にコーティングされているかのようだった。見慣れない、その薄気味の悪い扉に興味が湧いた俺は、ドアノブに手をかけると、ゆっくりとそれをひねる。するとガチャリと扉が少し開き、中から温かな空気が流れてくるのが分かった。さすがにこう都合よく空き部屋があるわけはない、中に人がいるかもしれないと、気配を伺ったが、扉の向こうに人がいる気配はなく、俺は思い切ってその扉を開き中に入ることにした。不法侵入になるだろうとは思ったが、それよりも身体が痛むし冷えていて控えめに言って死にそうな気分だったので、法律には申し訳ないが中に入ることにしたのだった。

 部屋の中に入ると、そこは小さな四角形の空間だった。六面の壁と床はすべて真っ黒で、空間の中央に小さなテーブルがあり、そのテーブルの上には双眼鏡が置いてある。そのテーブルの向こうには大きなホワイトボードがあって、そのボードには地図らしきものが貼ってあった。

 俺は一瞬立ち止まり、その異様な空間を観察していたが、しばらくしてふらついた足取りを進めながら、双眼鏡を手にする。双眼鏡は黒くコーティングされていて、見慣れないものだった。俺は双眼鏡を手にしながら、目の前の地図を見るが、地図はどうやらこの町のものらしかった。部屋の中は暖かく、俺は傷が癒えていくのを感じる。

 ふと、俺は双眼鏡を覗いてみることにした。

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