第7話

 「って、わけで。送別会は中止になりました」


 三人の前で私は淡々と説明をした。

 さっきあったことを。事細かく。そして、できるだけ嫌な感じに。

 できれば断ってくれれば良いなと思いながら。というか断ってくれよと願いながら。

 断ってくれるのなら、それを理由にこの討伐依頼を断れるよなあと思ったのだ。我ながらとても冴え渡っていると嬉しくなった。


 「おお〜、いいね。魔王討伐! 普通に生きてたらできないことじゃ〜ん。さすがはソフィア。直接そんなすんごい依頼が来るなんて。ソフィアが最強であることの証だね」

 「うんうん、ソフィアっちまじヤバい。あたしもそれ賛成。まじ賛成。ってか、今すぐ行くべきっしょ。ちょー楽しみすぎなんだけど」


 断ってくれないかなという淡い期待は簡単に打ち砕かれた。

 それどころかむしろノリノリである。

 意味がわからない。


 ネガティブキャンペーンをした。

 正直ところどころ話を盛った。嫌だって言ってくれそうな要素を積みながら。

 そ、それなのに。

 二人は興味を持ってしまった。断るどころかノリノリになった。


 泣きそう。


 「本当にやるの?」


 恐る恐る確認する。


 三人はそれぞれ顔を見合せてから、破顔する。


 「あったりまえっしょ」


 フィンは意気揚々と答える。


 「え、なんで?」

 「だって魔王討伐っしょ。まじヤバいし魔王討伐とか。激熱すぎっしょ」


 どうやら魔王討伐という言葉に惹かれてしまったらしい。


 「めんどそうとか思わなかったわけ?」


 もしかしたら私の仕込んだ種が芽生えなかっただけなのかもと思って、訊ねてみた。


 フィンは首を横に振る。


 「めんどそとは思ったしぃ。でも、まじ魔王討伐って考えたら、そんなのまじのがちでどうでもいいっしょ、ってなったし」


 フィンにとって魔王討伐とはそれだけ大きいものである、ということか。

 じゃあもういいや。


 「リーナも本当にいいの?」


 標的を変える。もうフィンはダメだ。魔王討伐という魅惑に取り憑かれている。


 「え〜、私も魔王討伐したい。それに三人と魔王討伐とか、す〜んごい濃い思い出になると思うんだよね」

 「そ、そりゃ……まあそうだろうけども」

 「でしょ〜」

 「めんどそうとかなかったの」


 さっき植えた種。フィンには芽生えなかったが、リーナには芽生えてて欲しいと思いながら問う。


 「う〜ん、そ〜ね〜。ないって言ったら嘘になるけど〜、でも、それも含めて三人でやるのは楽しいのかな〜って思うんだよね」

 「……それなら魔王討伐である必要はなくない?」

 「逆にソフィアに聞くけど〜、魔王討伐並みに濃い思い出になりそ〜なことってなにかあるの〜?」


 それはあんまりにも卑怯な質問であった。

 だってそんなのないから。


 あるわけない。魔王討伐に勝るものなんてない。


 「ないでしょ〜?」


 フィンにリーナと説得に失敗した。


 「ベル……は、やる気満々だったもんなあ」


 一瞬ベルを見て、あの騎士団長との会話を思い出し、問うことすら諦める。

 聞かなくても答えはわかるし。


 「まじ楽しみなんだけど」

 「回復術師として準備整える」

 「私も頑張っちゃうよ〜」


 三人は今にも討伐へ向かいそうなほどやる気満々。


 「「「ソフィア」」っち」


 三人は揃って私の名前を呼ぶ。

 そして、


 「まじ魔王なんてサクッと倒しちゃお」

 「みんなで楽しい思い出を一緒に作ろ〜」

 「大丈夫。ソフィアがいれば魔王くらい倒せる。簡単に」


 そうやって私の逃げ道を簡単に塞ぐ。


 「……はあ。いいよ、わかったよ」


 もうしょうがない。逃げられない。いや、最初からわかってたよ。やるよ、やろう。やればいいんでしょ。


 君たちは全員Lv99でカンストしてるけどね、私はLv99しか生まれない村の赤ちゃんに転生したのにLv1だったんだよ。

 みんな私のことを最強だと勘違いしているけど、私はクソザコだからね。

 対峙してピンチになっても知らないから。


 ほんっと! 知らないからね!


◆◇◆◇◆◇


 後の『ソフィア英雄伝』にはこう記されていた。


――ソフィア・スタリオンの数々の伝説を耳にした聡明であった魔王はソフィア・スタリオンの配下に下った。


と。




おわり


◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇


最後までご覧いただきありがとうございます。

早速ですが、似たような『勘違い系』作品の新作を投稿しています。


タイトル

《転生王女は王位を譲りたい》


あらすじ

《異世界の第一王女。カレン・ミストラルに転生した主人公は、早く王位を弟に譲って悠々自適な隠居ライフを送りたい。

時には王族としてわがままに振る舞い、時には悪役を演じ、自身の評価を下げようとするが周囲には「カリスマ的な改革者」と勘違いされ、支持者は増える一方。

弟や侍女、宰相までもが次期女王としての地位を後押ししてくる!?》

という今作と類似した勘違い系異世界コメディです!


今作楽しんでいただけた方はこちらも楽しんでいただけること間違いなしだと思います!!!


トップページ

https://kakuyomu.jp/works/16818622174167531099


1話目

https://kakuyomu.jp/works/16818622174167531099/episodes/16818622174167595266


良ければこちらでまたお会いしましょう︎︎👍

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幼馴染は全員【Lv99】でカンストしてる〜【Lv99】しか生まれない村の赤ちゃんに転生したのに【Lv1】だったが、みんな私のことを最強だと勘違いしている〜 皇冃皐月 @SirokawaYasen

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