第15話 幼馴染コンビ 2
深沢和樹 視点
あれから数日後、仕事の落ち着いたタイミングで小田の家に向かっていた。
小田からのメッセージで届いた報告によると、低級回復ポーションの相場は65Gだが、深沢が先日販売した5本は66Gで瞬く間に売り切れた。材料費は薬草と魔石を合わせておよそ60G。
1本あたり6Gの利益は確かに薄利だが、彼は小田に頭が上がらない思いだった。
というのも、深沢自身がGODストアで薬草と魔石の値段を確認した際、魔石の値段が5Gと安かったが、薬草に至っては70Gを超えており、小田がいかに安く仕入れているかが伺い知れた。
ネットの噂によれば、製薬会社が挙って薬草を買い占めているらしい。
「大量に仕入れたと聞いたが……」
小田の住むマンションの到着し、インターホンを鳴らした。
「待ってたぞ」
通された部屋にはGODストアから落札した薬草と魔石の入った箱がぞれぞれの材料別に置かれてあった。
箱を前に小田が振り返った。
「材料はこれだけ揃えたが、いけるか?」
「ちょっと待ってくれ」
「ステータス」
名前:深沢和樹
年齢:27
ジョブ:錬金術師 Lv.1
スキル:調合 Lv.1
HP:60/60
MP:50/50
STR:3
VIT:6
AGI:3
DEX:4
INT:5
WIS:5
深沢のステータスはネットで平均値と言われてた値とほぼ変わらない。
「調合スキルのMP消費は3…ポーションを16個作成するのが限界だな」
小田が思案する。
「20セット分は仕入れているはずだから、余りが出るか」
深沢が驚いた顔で小田に問いかける。
「勝利、俺の出した金はそこまで買えるほど出はないはずだが?」
どや顔で小田が答える。
「安心しろ、言い出しっぺは俺だし200万くらいまでなら予算はある。安ければもっと仕入れていたさ。」
「すまんな、メッセージでは聞いたけど、そこまで利益が出るものなのか?」
「ぼちぼちではある。今の相場なら60Gまでで材料を揃えられるなら、ほぼ確定で利益が出る状況っぽいからな!」
「それにFXよりは確実に儲かる!」
自信満々な小田に苦笑しながら深沢が答えた。
「また、キーボードを壊すなよ」
頭を掻きながら恥ずかしそうに小田が答えた。
「大丈夫だ。FX失敗の時みたいなヘマはしない。」
小田は株式のデイトレードでの稼ぎを元手に、FXに手を出したことがある。まだFX取引が不慣れな頃、そう、ダンジョンが現れたあの日、神の宣告により商人のジョブを得た。
タイミングが悪く保持していた通貨の為替が荒れていたようで、気が付いた時には大損の伴うロスカット(システムで損失が一定の水準を下回ったら強制的に決済が行われる仕組み)をした後だったらしい。
発狂した姿の小田から連絡を受けた深沢は、小田の部屋を訪れ、荒れた部屋と泣きながら酒を飲む幼馴染の姿を見た。
藪蛇になりそうな予感がし、慌てて話を作業に戻した。
「ま、まぁいいか、ポーション作るぞ」
深呼吸ひとつ――深沢は調合スキルを発動する。材料に向かって手をかざす、スキル効果でポーションそのものを生成していく。小瓶の中で淡い色がふわりと広がると、光が収まると手元に一瓶分のポーションが完成した。
「この調子であと15本……」
作成を終え、目の前に並べたポーション16本を見渡しつつ、ぽつりと呟いた。
「材料だけが残ったな…毎日作業に来た方がいいか?」
小田が余った材料をひと目で確認し、視線を深沢に向ける。
「それは和樹の仕事次第じゃない?」
深沢は少し首をかしげ、困ったように顔を上げる。
「ん~まぁそうなんだが、せっかく材料を揃えてくれているのに勿体なくないか?」
「まぁゆっくり行こうよ。これは俺らからすれば副業だし」
「それよりも、MPの最大値がもっと上がれば、ポーションをもっとたくさん作れるよね?」
深沢は小さく頷きながら、余った材料に目をやる。
「そうなんだけど……問題はレベルアップだ。ダンジョンに入れない以上、その他に方法があるのか?」
2人はスマホを取り出し、ネット上での情報収集を始めた。そこには同じように「民間人がジョブのレベルをどうやって上げるのか」という議論が山ほど上がっていた。
だが、どれも条件は同じで、ダンジョン侵入禁止の縛りから抜け出せない。
「日本はダンジョン不可が共通条件だから、突破口がないみたい……」
と小田呟くと、深沢は険しい表情を浮かべた。
「海外ならどうしてるんだろう?」
そう切り出すと、再びスマホに目を向ける。
ブラウザの検索欄に英語で “alchemist potion level up repeat craft” と打ち込んだ。検索結果には英語圏のフォーラム、スペイン語の掲示板、ロシア語のブログが並ぶ。
まず英語フォーラムを開くと、タイトルは “Crafting XP: 100 Potions for One Level?”。投稿には「I’ve done it myself: 100 low-tier healing potions boosted my alchemy from 1 to 2」(俺も試した:低級回復ポーションを100個調合したら調合スキルが1から2に上がった)と書かれている。下のコメント欄には「Confirmed by user Alkahest」「Works like a charm」などの反応が並んでいた。
続いてスペイン語の ForoAlquimia を開く。スレッド名は “Nivel por Repetición de Poción”。「Repite 100 veces y sube nivel」(100回繰り返せばレベルアップ)と要約された投稿に、参加者たちが「Es real」「No es fake」などと肯定し合っている。
最後にロシア語ブログ「Алхимическая мастерская」では、錬金術師が自作のプチ訓練場でポーションを100本作った記録写真まで掲載されていた。
俺は各スレッドをゴーグル翻訳で読み込み、画面を小田に見せた。
「ほら、英語でもスペイン語でもロシア語でも同じ噂がある。調合を100回繰り返すと経験値が入るらしい」
小田が驚いて訊ねる。
「100回? 今、何回達成したの?」
「正確な回数は覚えてないんだよな…」
この後、情報通りに深沢のレベルが上がり、2人は確実な利益を積み重ねる。本業を辞め、ダンジョン関連のアイテムを作成する会社を立ち上げることになるが、それは別の機会に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます