第16話 はじめての投資
朝、目が覚めると窓の外がほんのり明るかった。
枕元のスマートフォンを手に取り、先日開設した「楽々証券」の口座開設完了メールを再確認する。
今日はついに投資用の日本円を用意し、運用の第一歩を踏み出す日だ。
ベッドから起き上がり、Godストア残高らから10,000Gを引き出す。
「両替」
スキルを使い、10,000Gを日本円に換金した。
手順は簡単――心の中でコマンドを唱え、額に軽い響きを感じた瞬間、机の上に札束が現れる。
リュックに札束を詰め、スニーカーを履いて家を出る。
通りはまだ人影が少なく、春風が心地よい。徒歩数分で銀行のATM前に到着すると、現金を機械に投入し、通帳に記帳された金額を確かめる。
そのままスマートフォンで銀行のネットバンキングにアクセスし、連動口座へログイン。楽々証券の口座番号と金額を入力し、振込ボタンを押すと、画面に「入金完了:¥1,495,000」が表示された。
手続きは数十秒で終わったが普段見慣れない残高の桁数に気持ちが高ぶった。
帰宅後、パソコンを立ち上げて楽々証券のアプリを起動する。
投資信託一覧から「米国株式連動型インデックス投資信託」を選択し、購入画面で1,495,000円と入力。注文を確定すると、「注文受付完了」の文字が浮かんだ。約定通知は後日届くが、俺の中では資産運用が始まったも同然だ。
「これで、じっくり増やしていこう」
ひと息ついて時計を見ると、午前11時。
いつものルーチンである「ポーション製造」を行いたいが、俺は先にシャワーを浴びて身支度を整えた。
身軽な軽装に着替えると、朝食代わりに買い置きのパンをかじりながら、窓の外を眺める。空は青く澄み渡り、遠くの高層ビル群が朝日に映えている。
午後14時、部屋の机に向かう。
机の隅にはスキルで生成したポーションを入れるための空瓶が2つ並ぶ。
ユニークスキル「ポーション製造Lv.1」はMPのみを消費し、低級回復ポーションを一瓶作り出す。MP最大値は15で、一度に10を消費。10未満では発動できない。
時計が14時30分を指す。
昨夜十分に休息を取ったため、MPは満タンの15だ。
空瓶を前に並べ、準備は万端。
深呼吸ひとつ――。
――スキル「ポーション製造」発動。
――MP10を消費します。
冷気のような感覚が手に伝わり、瓶の中に淡い緑色の薬液が満ちていく。数秒後、一瓶の低級回復ポーションが完成し、残りMPは5に減少した。手早く瓶をテーブル中央に置き、
「一本目完了」
とだけ呟く
。
次の一本を作るにはMPを10まで回復させねばならない。
俺は以前、「1時間で1MP回復する」と体感している。この体感に誤差はないように感じるので、間違ってはいないはずだ。
その間、世界の進捗をチェックするべく、スマートフォンを取り出した。
まずはニュースアプリを開く。
アフリカのとある国では、政府承認の資源採掘隊と民間のならず者集団がダンジョン内で希少鉱石や魔石を奪い合い、GODストアを通じて売却する“ダンジョン資源バブル”が発生しているという。
採掘の混乱で治安が悪化し、首都部の市場にまで暴乱が波及しているらしい。
続いてアメリカの軍事動向を確認する。
序盤階層で実弾や爆発物を含む現代兵器を使用していたが、5F以降ではモンスターにダメージを与えにくくなり、10F以降では全く歯が立たないと判明。
そこで米陸軍は斧や剣、盾を装備した部隊を投入し、装備ごと切り替えながら敵を攻略。
最新報告では12階層まで進出に成功し、さらに上層への挑戦を準備中だという。
世界中で動きがあるほど、ポーションの需要は高いままだ。
俺は画面を閉じ、再びテーブルに視線を戻す。
時計が16時を示したころには、MPは6まで回復していた。そこで、近所の弁当屋まで出かける。鶏の唐揚げが山盛りの弁当を買い、戻って電子レンジで温める。テーブルに置いたままかぶりつき、麻婆豆腐や野菜炒めの汁気で少しポーション製造を忘れられる貴重な時間だ。
17時半、MPは8に回復。投資関連の動画を流しながら、テーブルで軽くノートを開いて日々の気づきを書き留める。
ダンジョンの動向、世界情勢、武器の切り替えと戦術の変化、医療の変化、そのたびにポーションが必要とされる場面を想像しつつ、次いつ訪れるかわからないレベルアップに思いを巡らせる。
19時半、MPは11にまで回復している。体感で感じ取れる範囲だが、初回からの回復速度は確かに「1時間で1MP」だ。
俺は再び空瓶を手に取り、深呼吸。
――スキル「ポーション製造」発動。
――MP10を消費します。
2本目のポーションが完成し、残りMPは1にとどまった。テーブルに淡々と2本を並べ、
「2本目完了」
と短くつぶやく。
部屋の窓からは夜の街灯が見え、穏やかな光が通りを照らしている。
投資とポーション製造、二つの「積み重ね」を並行して進める日常は、一見地味だが、自分なりの手応えを感じられる。
寝る前に、俺は明日以降の予定を思い浮かべる。
– 楽々証券での約定通知チェック
– 目標:ポーション製造2本
– 作成したポーションをオークションで出品
– GODストアの落札状況を淡々と監視
繰り返しになっても、毎日の積み重ねこそが大きな成果へとつながる。
俺はそっと呟いた。
「明日もまた、頑張ろう」
今日も変わらない日常の中で淡々と続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます