第14話 幼馴染コンビ



前回の錬金術師と商人の視点となります。




――平日夜。煌々とした蛍光灯がちらほらと灯る広いオフィスの一角に、深沢和樹(27)はぽつんと残っていた。周囲のデスクはもう片付けられ、深沢の机だけが書類と資料で埋まっている。

次週のプレゼン資料を作成する手を止め、深沢は視界にふんわり浮かぶGODストアのウィンドウを呼び出した。これは他の誰にも見えない、自分だけに現れる小さな情報画面だ。


かつてポーション価格が高騰後に参入して以来、しばらくは「1日1~2本を高値で御の字」と慎重に様子を見ていた二人。


しかし最近になり、低級回復ポーションの価格は安定し、薬草と魔石の材料費も落ち着いてきた。確実に利益が期待できると判断した深沢と幼馴染の小田勝利(27)は、先日連絡を取り合い、役割を分担してさらに効率化することにした。


神の宣告と同時に錬金術師のジョブを得た深沢は調合に専念し、 同じく商人のジョブを得た小田は材料調達と販売オペレーションを一手に引き受ける。

特に小田は本業でデイトレードを行っている都合、GODストアの市場相場を慣れた様子で見極め、できるだけ高値で売却するために価格設定を細かく調整している。


一方で、薬草や魔石の仕入れコストを抑えるのに苦戦している。

利益は二人で折半する、そう決めたのだ。


深沢は携帯電話を取り出し、小田に連絡を入れた。


――同じ頃、小田勝利はバーへ向かう前に自室でウィンドウを呼び出していた。

夜の静寂の中、部屋を青白く照らすウィンドウには、薬草と魔石の最安出品一覧が並ぶ。小田は深夜料金が適用される時間帯を避けつつ、狙い澄ましたタイミングで取得ボタンを押す。


「よし、この薬草1つは安い……」


最安値の薬草を選ぶと、ウィンドウ上のアイテムが瞬時に彼の収納リストへ移動する。続けて魔石を狙うが、出品数が限られているためリアルタイムで価格が変動していく。


価格が微妙に上がりそうになると、取得操作を中断し、数秒後にリストを再更新してから再挑戦する。


手元のゴールド残高はわずかに減少したものの、必要分の材料はしっかりと確保できている。

手のひらに並ぶアイテム欄を見下ろし、達成感とともに小田はひと息つく。


「これで深沢に調合分を渡せるだろう」


大きな収納ウィンドウを閉じ、スマートフォンをポケットに仕舞うと、小田は夜更けの街を抜けてバーへ向かった。

ほどなくして二人は近所の立ち飲みバーで落ち合い、深沢がウィンドウを呼び出すと、小田は真剣な表情で画面を見つめながら言った。


「今日は出品が三本。相場も落ち着いてきたし、価格はこのレンジでいけそうだ」


深沢は頷き、グラスを軽く傾けながら答えた。


「資金も十分だ。今夜は調合に全力を注ごう」


二人はバーを出て、家が近くにある小田のマンションへと向かう。


「今日までに集めた素材は5セット分かな」


小田がそう言いながら、深沢へと箱ごと手渡した。

箱の中には低級回復ポーションの材料である薬草と魔石が入っていた。


深沢は薬草と魔石をそれぞれ一つずつ取り、目の前に置く。


「それじゃ、いくぞ」


深沢はMP3を消費してスキルを発動する。


「調合」


材料が光に包まれると、淡い緑色の薬液の入った小瓶が、ゆっくりと生成される。

光が収まるまで、彼の表情は集中で引き締まっている。

何度か工程を繰り返し、五本の低級回復ポーションが完成した。


「よし、完成した」


深沢は生成した五本のポーションを販売担当する小田に手渡した。


「いつも通り、よろしく!」


小田は即座に反応し、画面に表示されるゴールド残高の変化を細かくチェックしながら言った。


「了解だ!米国のゴールデンタイムに当たる、日本時間9時から11時の間で完売を狙おう。」


小田はふと顔を上げ、深沢を見る。


「さて、今日はここまでにするか?」


深沢は夜景を交互に見ながら、頷く。


「そうだな。流石に残業で疲れたわ。」



「サラリーマンは大変だな。」


「あっ、忘れるところだった。今日までの利益はどうする?」


前に会った時から3日ぶりとなる今日、小田のGODストアでの利益に対する相談だ。


「追加で材料を買い足して、明日から本数を増やしてみないか?」


小田はノートを胸元に引き寄せ、目を輝かせた。


「いいね!次会う時まで可能な限り材料を買い集めておくよ」


深沢は微笑みながら同意し、小田に向かってグラスを軽く掲げた。


「じゃあ、次回もよろしく頼むよ」


「任せとけ!」


二人は乾杯し、夜の屋上に静かな余韻が広がった。

小田はノートに目標数値とリスク許容をメモし、さらに市場の動向を監視し続ける。


――翌日。


小田は朝から本業の株取引の傍らポーションの出品を行っていた。

本業が少し落ち着いたタイミングでGODストアの売れ行きを確認していた。

「低級回復ポーション ×5 売却」


時計を確認するとまだ10時を過ぎた辺りで、ポーションの全てが売れていたのだ。


「12時辺りまでは活発に取引があると思っていたが、昨日に続き即完売か」


「もう少し欲張ってみてもよさそうだな」


小田は売上を確認しながら、スマホのチャットアプリで深沢にメッセージを送信した。


【勝利】「さっき、ポーション5本が全部66Gで完売したよ!需要まだありそうだから、薬草と魔石をもっと多めに仕入れようと思ってるんだけど、どうかな?まとめ買いのタイミング、教えてくれると助かる!」

メッセージを送ると、小田は軽く息をつき、コーヒーをもう一口啜ってから外を見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る