第13話 それぞれの視点で
総理視点
――午前7時30分、首相官邸執務室にて。
壁に掛かった大画面に、国内で新たに確認された11か所のダンジョンのマップが映し出されている。
これまで人が近づかなかった山奥や廃坑、無人島、地下鉄の未使用区間、海底トンネルなど、多様な環境で次々に発見された。
画面横の報告書を開く。
『国内11か所のダンジョン現況報告:これまでに発見された各ダンジョンの位置と大規模調査の進捗状況をまとめたもので、公開可能な範囲で示されています。詳細な階層構造の情報は、安全保障上の理由から非公開です。』
自衛隊の調査状況
人員に限りがあり、11か所すべてを回る余裕はない
先週までに3か所で1~5Fの構造解析と安全確認を実施
機材損壊は2件あるものの、人的被害ゼロ
GODストアでのポーション取引が継続していることから、未発見ダンジョンの存在も視野に入れ、調査範囲を順次拡大していく必要がある
「このままでは、国民の安全を確保できない」」
俺は宣言した。
「タスクフォースを設置し、省庁横断で進めます。警察庁との連携の下、災害対策基本法の適用範囲を拡大し、自治体ごとの防災計画にダンジョン遭遇リスクを組み込みます」
内閣官房長官と、防衛大臣、経済産業大臣が頷く。
――午後3時、首相会見室。
集まった記者たちを前に、用意した原稿を読み上げる。
「政府は国内11か所のダンジョンについて、まず1~5階層の安全確認を最優先とします。銃器が有効な低層域までを自衛隊の特殊部隊が調査し、危険度評価を行います」
「同時に、全国の自治体と協力して避難計画の整備、およびインフラ管理者による応急復旧体制を構築します」
質問が相次ぐ。
―「10F以降の調査計画は?」
「現状、装備の制約から困難を極めています。各国の事例を踏まえつつ、装備改良や民間技術の導入を検討します」
―「全11か所をいつまでに調査可能か?」
「まず3か所を完了し、来月以降に順次拡大します。しかし人員と装備に限界があるため、民間企業との協力も視野に入れています」
会見を終え、控室で書類を受け取る。午後の閣議まで時間はない。
――夕刻18時、執務室。
デスクの上に書類の山が積まれている。中には地質調査会社からの報告書もあるが、そこにはこう記されている。
『本調査依頼:対象ダンジョンは魔法空間の特性を有し、現代の測量技術では全階層数が判明していない』
国内で唯一、深層への可能性を秘めるダンジョンに対し、調査の困難さが改めて浮き彫りとなった。
窓の外、官邸庭園に灯りがともり始めている。
胸の奥が締め付けられる思いだった。しかし、行動を躊躇うわけにはいかない。
「国民を守る。それが、この政府に課せられた責務だ」
暗闇が訪れる前に、もう一度だけ報告書に目を通す。
とある錬金術師視点
薄暗いアパートの一室。壁に掛かるシンプルな照明の下、机上にはGODストアのウィンドウから配達されたヒール草の束と魔石の欠片が並ぶ。いずれもダンジョン内部でしか採集できない希少品だ。
彼は眼鏡型端末を通じてウィンドウを呼び出し、バーチャルの取引画面を眺める。現金を入力すれば即座にゴールド(G)に両替され、購入操作は視線選択とタップで完結する。協力する商人が発動する両替スキルが介在し、レートを自動最適化してくれる仕組みだ。
「これで十分だ」
素材が自動倉庫に反映されると、彼は手早くヒール草と魔石を調合器のホルダーにセットする。機械の金属音がかすかに響き、調合スキルを発動すると、内部から機械的な音が鳴り始める。液体が淡い緑色に輝きながら小瓶に注がれ、細かな泡がゆっくりと立ち昇る。生成には数分を要するが、その間、彼の呼吸は穏やかに整えられ、集中力はむしろ高まっていく。
薬液が完全に安定し、ランプが消えると、彼は完成した一本を丁寧に棚に並べた。息を吐くように安堵の表情が浮かぶ。
相方の商人視点
雑居ビルの一室から数ブロック離れた、簡易オフィススペース。モニタリング用のウィンドウが並ぶ壁面に、GODストアの取引状況がリアルタイムで映し出されている。ウィンドウには出品中の商品数、平均落札金額、直近の入札ログが次々に更新されていく。
彼は協力者の商人で、両替スキルを駆使しつつ、得られたゴールド残高を管理する。画面脇のサイドバーには過去一週間の売り上げ推移がチャートで表示され、特定の時間帯に入札が集中する傾向が視覚化されている。
「午後八時から二十本程度が勝負どころか……」
彼はウィンドウを操作し、出品フォームを呼び出す。完成した低級回復ポーションの情報を登録すると、ストアで数量、価格、即決落札オプション、最小入札単位など細部を調整し、瞬時に登録を完了する。
作業後、彼は画面に表示された「登録成功」の通知をゆっくりと眺めた。次に控えるのは価格変動の監視だ。入札が始まる時間帯には、再びウィンドウをチェックしながら、余裕があれば価格帯の再設定や数量の追加を行う。
「今夜の目標は5000G、リスクはこれくらい……」
ストア画面横では起動したパソコンのテキストフィールドに目標とリスク許容度をメモし、翌日の戦略を頭の中で組み立てる。
必要に応じてGODストアのウィンドウでライバル出品者の動向も監視し、価格が下がりすぎないように仕掛けを考える。
やがて、ビルの外から聞こえる夜の雑踏が窓ガラスを震わせる。だが、この室内だけは神聖な市場原理の戦場だ。静かな興奮と緊張感が、彼の背筋を伸ばしていた。
ネットの声
582 : 名無しさん@政治板
ようやく動き出したか。もっと早くてもよかったんじゃないか
613 : 名無しさん@政治板
11か所もあったのか。山奥や無人島とか、手強そうだな
645 : 名無しさん@政治板
自衛隊の人員って本当に足りてるの?3か所しか回れてないって聞いたが
702 : 名無しさん@政治板
銃が効くのは5Fまで?それ以上無理なのか……装備強化急げよ
721 : 名無しさん@政治板
民間企業と協力なんて無責任すぎないか?公務員でちゃんとやれ
754 : 名無しさん@政治板
避難計画ってどうやって作るんだよ?自治体の負担半端ないぞ
801 : 名無しさん@政治板
銃が5Fから効きづらくなるのに、10F以降もあるらしいって聞いたが、マジでヤバす
ぎるだろ
829 : 名無しさん@政治板
10Fまでが実質的な探索限界だと聞く。10F以降は未踏の領域で、何が待っているか分からない
847 : 名無しさん@政治板
ダンジョンが災害対策法の対象になるなんて、歴史的瞬間だな
903 : 名無しさん@政治板
経済への影響は?株価も荒れるだろうな
917 : 名無しさん@政治板
夜中に探検とか、自殺行為だろw
938 : 名無しさん@政治板
こういう時こそ国会議員が現地見てこいよ
957 : 名無しさん@政治板
情報公開もっと細かくしろ。国民不安解消しろっての
984 : 名無しさん@政治板
日本がそんな早く動くわけないだろ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます