Episode 34 ドロップアイテム

 〈廻鹿ギアー・ディアー〉を大量撃破したその後、〈トトロロ鍛刀場〉へと帰還した私と師匠。

 

「いやー、大漁大漁」


「……? 何が大漁なんですか?」


 帰還後早速、ほくほくとした笑みで金床に何かを並べ始める師匠。

 大小問わない、歯車の形をしたアイテムの数々。


「歯車……? なんです、それ?」


「フフっ、気になる?」


 膝に手をつき身をかがめ覗き込む私を、満面に笑みを広げて見上げる師匠。

 気の強さに似合わない、その幼げで可憐な容姿と相まって、不意にどきりとする。

 心臓に悪い。


「これは〈廻鹿ギアー・ディアー〉のドロップアイテム――〈廻鹿の心臓〉」


「ドロップアイテム?」


「そのまんま。モンスターからドロップしたアイテムのことね。つまり戦利品ってことや。――ほれ」


 差し出された1つの歯車を手に収め、四方からまじまじと観察してみる。


「戦利品……これがですか?」


「せやで? これでも案外貴重なんやからな?」


 〈廻鹿の心臓〉を返す。

 師匠は金床に一本の刀を寝かせ、その上に受け取った歯車と、その他のいくつかの歯車も一緒に並べ始めた。

 突如始まった突拍子もない行動に思わずぎょっとする。

 そんな私をよそに、なんでもないように師匠が言う。


「今日トウカに付き合うてもろたのは、実はこっちが本命やねん」


「え、この歯車が欲しかったんですか?」


「まあ、そういうことやな」


 そう言って、インベントリから取り出すのは大物の金槌。

 右手でぎゅっと握り締め、たった一打、力強く叩いた。


「っ!?」


 突然、打たれた刀が白びかりに全身を覆われる。

 光に吸収されていくみたいに、刀身に並べられた〈廻鹿の心臓〉が溶けていく。

 光は刀も歯車も全部飲み込んで、形をぐにゃりと変形させる。

 それでも尚、刀らしい輪郭を保っている。


 数十秒とそうしている間に、やがて光は色を変えた。

 目を瞑ってしまいたくなるような眩しさは抑えられ、少し青さ加減が増す。

 そんなタイミングで、何やらウィンドウをいじりもう1つの槌を出現させる。


 持ち替えられたその槌は、さっきのものと比べてやや小さく、あまり装飾の施されていないシンプルな造りをしている。

 けれど、その質量は以外にも大きいよう。


「――ッ!」


 止むこと無く光を纏う刀に、躊躇なく振り下ろす。

 面が光を打つたび、青白さを潰すような重々しい音が、ガン、と喉奥に響く。



 見るからに、それは鍛刀行為そのものだった。

 けど、それはあるいは儚いもので。

 多分1分も経たないで、呆気なく終わりを迎える。

 

「ふぅ。ま、こんなもんやな」


 腰に手を当て、満足気にそれを眺めた。

 金床に横たわるそれを。



「ぉお……!」


 

 刀、よりも剣と言う方が近しいかも知れない。あまり反りのない形状。


 特に印象強いのが、刃の根の辺りに3つ、かっちりと噛み合った歯車。

 付いているというより、組み込まれているという方が正しい。

 もはや歯車ですらこの武器の一部であると主張するようなデザイン。


 刀特有の和風らしさはもはやない。

 むしろ「スチームパンクの世界観に刀があったら」という妄想がそのまま顕現したかのような姿かたち。

 


 金床の上にぽつんと、気付いたらそこにあったっていう感じで、あんまり情緒がない。

 それでも、未だ中二病拗らせ気味の私の心を鷲掴みにするような、浪漫が溢れる一刀。

 私は、抑えられないくらいの衝動を、一滴残さず吐き出すみたく、バン、と金床に掌を付いた。



「これ、私も作りたいですっ!」

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