新しい主君(ダミアン視点)

 アロイス殿下は明日この国から出てしまう。次いつ来るかもわからない。とにかく今すぐ会いたかった。

 でも彼に会ってしまえばスオムレイナムへの忠誠は揺らいで崩れてしまうだろう。

 それでも殿下に会う事を選んだ。思えば私は限界だったのかもしれない。

 ――――――――――――――――

 着替える時間すら惜しかった。虐げられている私に良くしてくれる唯一の召使に戻らないかもしれない事を伝え外套を羽織り兎に角急いで部屋を出た。

 事前に伝えず、しかもこんな夜中に訪問しては嫌がられるかもしれない……。アロイス殿下のところまで来た時後悔の念が襲ってきてやはり帰ろうかと思ったが、殿下の召使の人に「会わずに帰られるなどとんでもない。殿下は貴方の事をずっと思っていましたよ」と引き止められてしまった。しかし……と踏ん切りがつかないうちに

「……ダミアンか」

 ドアの向こうから待ち望んだ声がする。もう後戻りはできないと感じた。

「夜分に申し訳ございません……迷惑、ですよね」

 ここで迷惑だと言われれば大人しく諦めて帰れる。この失礼な他国の騎士に冷たくあたってくだされば良かったのに、殿下は優しく労わってくださった。気が緩んで要らぬ愚痴まで漏らしてしまったのに

「嫉妬……私はその感情を決して悪い物だとは思わない」

 とまで言ってくださった。

 ガラガラと音を立てて崩れ去ったのは忠誠かそれともプライドか。私は初めてアロイス殿下の誘いを受け入れた。

 汗と涙でぐずぐずになった私に口付けてくださった。着の身着のままで来た私の身を案じてくださった。一介の騎士の身に過ぎない私をまるで恋人を初めて抱くかのように優しくしてくださった。自分を頼れと言ってくださった。

 散々誘いを断り続けたのに、それを咎めもせず受け入れてくださった。給料が低くても不便な僻地に飛ばされても大丈夫だと思える。これが本当の忠誠心なのかもしれない。いや、もしかしたらこれは忠誠ではなく恋なのかもしれない。

 ――――――――――――――――

 翌朝、アロイス殿下は「食事を終えたら君をもらう事を正式に手続きをする」と言っていた。手続きに向かう最中、肩に回された手を嬉しくも恥ずかしく思っていたら「私たちは結婚するのだ。慣れておくべきではないか?」と言われてしまった。

 そうか、私たちは結婚するのか……。しかしこれは慣れるのだろうか。今も心臓が痛いほど脈打っていてどうにかなりそうなのに。

 この時の私はただ黙って受け入れるしかなかった。

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