熱心な人(ダミアン視点)

あの熱心な方と初めて会ったのは式典の時。

 隣国ウルトリエは我が国スオムレイナムから近いが誰も連れていってくれた事がないので行った事はなかった。だから外部の人間に興味があり、ウルトリエの事を調べながら式典の仕事を楽しみにしていた。

「初めまして、ダミアン・クストーです。本日はお越しいただきありがとうございます」

 ウルトリエの王様と上の王子様は気さくに挨拶を返してくださったが下の王子様は私をじっと見つめている。何か不敬な態度をとってしまったのだろうか

「殿下、どうかされましたか?」

 するとハッとして

「ごめんなさい。貴方がとても美しかったので見惚れてしまいました」

 などと真顔で言うのだ。王様と上の王子様は驚いた顔をしている。

 私は代々王家に仕える公爵家の不義の子と言われ続けてきた。父が母にお手つきしたのにまるで母が悪いかのように大人は振る舞い、その母に似た私の事も忌々しい女に似た子ということで疎んできた。正妻とその子供からは虐げられる事もあった。

 その私の容姿を褒めたのだ。思わず顔を赤くしてしまった。バレてないと言いが……。

 その後案内などをするうちに下の王子様……アロイス殿下には大変良くしていただき……していただきすぎたのか別れ際が大変だった。

「お別れなんてやだ!一緒にウルトリエに行こうよ!」

 そう言っていただけるのは嬉しいが、私はここにいるべきなのだ。再会を約束してこの日は別れた。

 ――――――――――――――

「ダミアン!私は外交官になったぞ!今ならそれなりの立場もある!ウルトリエに来よう!」

「愛しきダミアン。今日こそウルトリエにきてもらおう」

「ダミアン、お前は相変わらず美しい。この世の美しきものは全てお前には劣るだろう」

 アロイス殿下の熱心な勧誘はいつの間にか愛を囁く言葉になっていった。私の周囲も慣れてきたのか「そろそろ行ってやったらどうだ」という空気になってきている。友人のフレデリク以外はアロイス殿下に好意的な見解を示している。これが外交官殿による外堀埋めだろうか……?

 もうこの頃になるとウルトリエに行ってもいいかもしれないと思い始めてきたが、私は私の国を捨てられないどうしようもないやつである事を思い知らされてきた。

 だから今日も断った。いつかこのスオムレイナムへの忠誠は報われるだろうと信じていたからだ。


 だがそうはならなかった。


 結局王家はフレデリクばかり重用している。フレデリクが類稀なる才を持っている事は友人である私が誰よりも分かっているつもりだ。

 だが、それとこれは別だ。周りの騎士も「これならもうフレデリクだけでいいよな……」という雰囲気になりつつある。

 我々は大任を仰せつかったフレデリクの為の準備に追われた。こんなにやる気の出ない仕事はそうないだろう。無気力な中、私に熱心に愛を囁くあの方が酷く恋しかった。

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