出発

ダミアンを貰い受ける手続きは国を跨ぐ事を考えても思ったよりすんなりと終わった。

 ダミアンを顧みないご実家や出自故の立場の低さなんかもあるが、なにより私が初対面の時からずっとダミアンにアプローチし続けていたのを誰もが知っていて、我々が結ばれて両国の交流が盛んになるのであればと誰も反対しなかった。ただ1人を除いて。

 ――――――――――――――

「寂しい……寂しいよダミアン……君がいなくなってしまうなんて……」

 出発の朝、船着場には騎士団の人が何人か見送りに来てくれた。その中にはフレデリクもいて泣きながら別れを惜しんでいる。

「泣くなフレデリク……今生の別れじゃあるまいし、お前にはやるべき事があるはずだ」

 ダミアンはつきものが落ちたかのような顔をしてフレデリクを鼓舞している。距離が離れていれば大きすぎる嫉妬を持つ事はないだろう。

 それにしても主人公含め騎士団の人たちには随分尊敬されていたようで少し誇らしい。物語でもこういうところをちゃんと描写すればいいのに……。

 2人を見ていると気づいたフレデリクがこちらをキッと睨む。不敬な奴だな。

「私は貴方を認めたわけではありません。もしダミアンを不幸にするような事があれば何をしてでも連れ戻します」

「こらフレデリク!」

 ダミアンは怒り騎士団の皆は殿下に不敬だぞ!と大変慌てている。あのままだとダミアンを不幸にするのはお前だがな……と思いつつ、ダミアンを好きなやつに悪いやつはいないだろう。彼を思う気持ちは尊重されるべきだ。とも思う。

「そうだな。ダミアンにはスオムレイナムに帰りたくないと思わせるくらい幸せになってもらうから、お別れが寂しいならもう少し時間をとってやっても良い」

 だが相手は10年以上口説き続けたこの私だ。ダミアンへの思いは誰にも負けない。2人でしばらく睨み合ったのち、船がやってきた。

 船に乗り込み出発の時間。ダミアンも騎士団もお互いが見えなくなるまで手を振った。

「やはり母国を離れるのは辛いか?」

 スオムレイナム方面から目を離さないダミアンの肩を抱くと彼は首を横に振った。

「寂しくない……と言えば嘘になってしまいますが辛くはないです」

 ほんの少しの痛みとこれからの大きな期待を抱く横顔は海に照らされたせいか眩しく見えた。

「寂しいなら本当にスオムレイナムを忘れられるくらい毎晩抱いてやろう」

「ご、ご冗談を!」

 肩をいやらしく撫でると顔を真っ赤にして怒っている。いつ見ても可愛い。

 私は期待を胸にウルトリエへと帰った。

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