親身

長万部 三郎太

逃げ出してます

私はどこにでもいる普通の主婦。


ありきたりな旦那と、どこにでもいるような子どもと、

そしてメジャーなペットの犬と、ごく普通のマンションで暮らしている。


代わり映えのしない毎日、将来が透けて見える生活。



「このまま歳を取ってオバサンになるのかしら……」



ある日ショッピングモールに出かけた私は、フロアの隅に特設された占いブースを見つけて足を止めた。


別に占ってほしいわけじゃない。

誰かに私の愚痴を聞いてほしかった。


占い師に着席を促され、ふかふかのソファーへと座る。


「最近、調子はどうですか?」


柔らかいトーンで質問する占い師の声をきっかけに、堰を切ったかのように日ごろの不平不満をぶちまけた。


「それは大変でしょう……」


「よく毎日耐えてますね……」


「僕だったら逃げ出してますよ……」


そこには私が欲しかった同意、そして共感の言葉があった。

涙目を堪え、顔を上げて占い師の目を見たその時。



「お宅の犬、是非とも僕に引き取らせてください。

 話を聞いた感じ、とても可哀想なので……」





(すこし・ふしぎシリーズ『親身』 おわり)

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親身 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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