第10話 巻物争奪戦! 開戦! …って、聞いてますか二人とも!?

 忍ヶ丘学園における初めての本格的な実技試験、『班対抗・巻物争奪戦』が始まろうとしていた。広大な訓練場を舞台に、隠された巻物を奪い合う…まさに忍者学校らしい、血湧き肉躍る(俺にとっては胃が痛くなるだけだが)イベントだ。


 問題は、俺、風間ハヤテが組むことになった班のメンバーである。

 一人は、狸谷ぽこさん。伝説の忍者一族の末裔とは名ばかりの、忍術ポンコツ、食欲旺盛、物理最強のタヌキ耳少女。

 もう一人は、猫宮レイ。エリート猫又一族のお嬢様で、才色兼備だがプライドが高く、口を開けばイヤミばかりのクールビューティー。


 ……どう考えても、チームワークなんてものが成立するとは思えない。周囲のクラスメイトからの「あーあ…」「ご愁傷さま」みたいな視線が痛い! 痛すぎる!


「い、いいですか、皆さん! 試験開始前に、作戦会議を行いますよ!」

 俺は班長(押し付けられただけ)として、なんとかリーダーシップを発揮しようと声を張る。タブレットを取り出し、事前に分析しておいた訓練場のマップと、巻物の隠し場所の予測データを表示する。

「この試験はチームワークが鍵です! まずは役割分担を…ぽこさんはその驚異的な体力で陽動、レイさんはスピードを活かして回収、俺が後方から指示と分析を…」


「作戦でござるか? 難しそうでござるな~」

 ぽこさん、俺の話を聞く前から、すでに木陰で丸くなって、お気に入りの葉っぱのネックレスをいじりながら、うとうとし始めている。おい!

「むにゃ…お団子の作戦なら、任せるでござる…すぴー…」

 完全に寝た! こいつ!


「フン、どうせあなたの机上の空論でしょう?」

 一方のレイさんは、腕を組んで鼻で笑っている。

「わたくしはわたくしのやり方で、効率的に巻物を回収させていただきますわ。せいぜい足を引っ張らないでくだされば結構ですことよ」

 聞く耳ゼロ! こちらも俺の作戦をガン無視する気満々だ!


「(だーーーーっ! ダメだこりゃ! 作戦会議、開始3分で空中分解した!!)」

 俺は心の中で絶叫した。もういい、好きにしてくれ! どうせこうなる気はしてたんだ!


『それでは、実技試験「巻物争奪戦」、始め!!!』


 犬飼先生の号令が響き渡る! その瞬間!


「巻物でござるか! よーし、お宝探しでござるぞー!」

 ぽこさんが目を覚ますなり(食べ物の匂いでもしたのか?)、野生の勘(としか思えない)を発動! まるで猪のように、一直線に森の奥へと突進していく! 早い! って、そっちは崖だって!


「フン、あの鈍くさ狸に先を越されるなんて屈辱ですわ!」

 レイも負けじと、しなやかな動きで木々を飛び移り、あっという間に姿が見えなくなった! さすがのスピードだ!


 ……取り残された俺。

 タブレットに表示された完璧な(はずだった)作戦プランが、虚しく明滅している。

「(え、なんか、俺、本当に必要なくない…? いや、でも、あの二人、絶対なんかやらかす…!)」

 俺は重いため息をつきながら、二人の後を追うように走り出した。


 そして、俺の嫌な予感は、的中率100%を誇るのだ。


「見つけたでござるー!」

 少し開けた場所で、ぽこさんが岩の下から巻物を一本、嬉しそうに掘り出していた。どうやら持ち前の怪力で、岩をどかしたらしい。…いや、岩、粉々になってますけど!?

「ぽこさん! 岩を壊したら隠し場所だってバレバレじゃ…」

 俺が言いかけた、その時!


「そこの狸! その巻物はわたくしが先に見つけましたのよ!」

 木の枝から、レイが颯爽と降り立ち、ぽこさんが持つ巻物を指差した!

「む? レイ殿でござるか? でも、これは拙者が掘り出したでござるよ?」

「いいえ! わたくしがあの岩に目をつけていたのです! あなたが横取りしたのでしょう!」

「横取りとは心外でござる! 早い者勝ちでござる!」

「なんですって!?」


 子供か! お前らは! 巻物一本でギャーギャー言い争うな!

 しかも、その言い争いに夢中になっている間に…!


「「「そこだ!」」」

 茂みから、他の班の生徒たちがワッと飛び出してきた! ぽこさんとレイが目立っていたせいで、完全にターゲットにされている!


「しまっ…!」

「まずいですわ!」

 言い争っていた二人が、同時に敵の接近に気づく!


「ええい、邪魔でござる!」

 ぽこさんが、近くにあった手頃な(?)岩(またか!)を掴み上げ、敵に向かって投げつけようとする!

「待ちなさい、狸! そんなことをしたら…きゃっ!」

 レイがそれを止めようとした瞬間、投げられた岩(幸いにも狙いは逸れた)が、レイが飛び移ろうとしていた木の枝を直撃! バキッという音と共に枝が折れ、レイはバランスを崩して地面に落下!


「あいたたた…! もう! あの馬鹿力狸!」

「ありゃ? レイ殿、大丈夫でござるか?」


 連携ゼロ! 意思疎通ゼロ! 完全に同士討ちじゃないか!


 そして、そんな無防備な二人を、敵班は見逃さなかった!

「よし! 今だ! 二人を囲め!」

「巻物を奪い取れ!」


 統率の取れた動きで、複数の生徒たちが一斉にぽこさんとレイに襲いかかる! 足止め役が巧みに動きを封じ、攻撃役が手裏剣やクナイを投げつけ、巻物強奪役が隙を窺う!


「うにゃー! 離すでござる!」

 ぽこさんは持ち前のタフさで攻撃を耐えているが、数人に押さえつけられ、身動きが取れない!

「くっ…数が多い…!」

 レイも得意のスピードと忍術で応戦するが、四方八方からの連携攻撃に翻弄され、徐々に体力を奪われていく!


 まずい! このままじゃ二人ともやられる!


「ぽこさん! レイさん!」

 俺は茂みの中からインカムで叫ぶ! だが、戦闘の混乱の中、俺の声は届かない!


 二人は完全に分断され、敵に囲まれてしまった!

 絶体絶命のピンチ! 果たして、この窮地をどう切り抜ける!?


(続く)

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