第6話 森の中、村への道
ディヴァイン・スクライブ――DSとのファーストコンタクトと初期情報収集を終えた俺、神代祐樹は、異世界アルカディアでの第一歩を踏み出した。目的地は、ここから北へ三キロほどにあるというアリエット村。右も左も分からないこの世界で、まずは人のいる場所へ向かうのが定石だろう。幸い、俺にはDSという超高性能なナビゲーター兼情報端末がついている。
「よし、DS。アリエット村までの安全なルートを案内してくれ。あと、道中で注意すべきこととか、何かあるか?」
『承知しました。現在地からアリエット村までの最短かつ安全なルートを検索・表示します。所要時間は徒歩で約1時間と推定されます。注意点として、低レベルモンスターとの遭遇可能性が挙げられます。特に“スライム”および“フォレストウルフ(幼体)”の生息域を通過します。現時点でのユーザー・ユウキのステータスでは、戦闘は推奨されません。可能な限り回避ルートを選択します』
目の前の半透明ウィンドウに、周囲の地形を模した簡易的な3Dマップと、そこに引かれた推奨ルートを示す赤いラインが表示される。まるで最新のカーナビかゲームのマップ機能だ。ご丁寧に、モンスターの推定生息域まで示されている。
『ユーザー・ユウキ、前方50メートル右手に低レベルモンスター、スライムの反応を検知。危険度は極小ですが、接触を避けるルートを推奨します』
「お、おう。了解。そっちへ避ける」
DSの警告に従い、俺は慎重に足音を忍ばせて、ウィンドウに示された迂回路へと進路を変えた。鬱蒼とした木々の合間、湿った地面に目を凝らすと、確かにいた。ぷるん、ぷるんと不規則に震える半透明の緑色の塊。大きさはバスケットボールくらいか。ゲームではお馴染みの、いわゆる雑魚モンスターの代表格、スライムだ。前世では画面越しの存在だったものが、こうして目の前に実在している。粘液質な体表が木漏れ日を鈍く反射し、得体の知れない生命感を放っている。弱いと分かっていても、生理的な嫌悪感が湧き上がってくる。触りたいとは絶対に思わない。DSの言う通り、関わらないのが一番だ。
スライムの横をやり過ごし、再びDSのナビに従って森の中を進む。木々の種類は、地球のそれとは微妙に違うようだ。見たこともない形の花が咲いていたり、妙に巨大なシダ植物が生い茂っていたりする。空気は澄んでいて、土と緑の匂いが濃い。時折、未知の鳥の鳴き声が森の静寂を破る。全てが新鮮で、五感を刺激してくる。
「(これが異世界……本当に来ちまったんだな……)」
前世の記憶はまだ鮮明だ。連日の徹夜、終わらないデバッグ作業、上司の叱責、栄養ドリンクとコンビニ飯だけが友達だった日々……。それに比べれば、この森の空気はどれだけ美味しいことか。たとえ無一文で、何の力もない状態からのスタートだとしても、あの灰色の日々よりは、ずっとマシな人生を送れるかもしれない。そんな期待感が、自然と湧き上がってきた。
『ユーザー・ユウキ、心拍数、血圧、ストレスホルモン値が安定レベルにあります。精神状態は良好と判断されます。ただし、未知の環境への適応にはエネルギーを消費します。適度な休息を取りながら進むことを推奨します』
「……お前、バイタルチェックまでできるのかよ」
『はい。ユーザーの健康管理も、私の重要な機能の一つです。必要であれば、最適な休憩ポイントの提案、ストレッチメニューの生成なども可能です』
「はは、至れり尽くせりだな……」
AIとのこんなやり取りも、少しずつ板についてきた。最初は戸惑いばかりだったが、DSが単なる機械ではなく、頼れる「相棒」であるという感覚が、俺の中で芽生え始めていた。前世では、こんな風に誰か(?)を頼ったり、サポートされたりする経験なんてほとんどなかったから、少し気恥ずかしいような、それでいて心強いような、複雑な気分だ。
この異世界と、このチートなAI。それらがこれからの俺の人生をどう変えていくのか。不安よりも、今はただ、期待の方が大きかった。
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