第7話 「包帯と、備えと」
翌朝。
ケイは、小さな布袋を手に、村の外れへ向かっていた。
袋の中には、丁寧に巻かれた包帯が数本。
もちろん、今すぐ使うためのものではない──少なくとも、表向きは。
* * *
広場では、騎士団の数人が、暇を持て余して遊んでいた。
サクも、子どもたちに混じって、木剣を振り回している。
「へへっ、見ろよケイ! オレ、騎士団になった!」
無邪気に笑うサクを見て、ケイもわずかに口元を緩めた。
だが、その直後──
「ああっ!」
サクが足を滑らせ、石畳の上に転んだ。
膝から鮮やかな血が滲む。
周りの騎士たちがざわついたが、ケイは迷わなかった。
すぐに駆け寄り、そっとサクの膝に手を伸ばす。
「大丈夫、大したことない。」
布袋から取り出した清潔な包帯で、手際よく傷を覆う。
「……ありがとな、ケイ。」
サクが照れくさそうに笑った。
ケイも小さく笑い返しながら、ふと、今朝方のことを思い出す。
──予知夢。
昨夜、ケイは夢を見ていた。
サクが、騎士団の訓練場で勢い余って転び、膝をすりむく場面だった。
夢の中では、誰もすぐには手当てをしてくれず、サクが痛そうに顔をしかめていた。
(……小さなことだ。でも、放っておくのは嫌だった。)
だから、今朝、何も言わず包帯を持ってきた。
未来は変えられない。
でも、未来を少しだけ柔らかくすることなら、できるかもしれない──。
そんなふうに、ケイは考えていた。
* * *
そんな二人のやりとりを、少し離れた場所で見ていた男がいた。
──アック。
「……勘が良すぎる。」
副官にぽつりと漏らす。
「あの少年、まるで未来を知っているみたいだ。」
アックは眉をひそめたが、すぐに表情を緩めた。
(まあ、たまたまだろう──たぶん。)
* * *
夕方。
ケイは、また一人で何かをしていた。
今度は、川沿いに小さな石を並べている。
不思議な曲線を描くように。
それが何のためなのか、誰にもわからない。
サクが近づき、首をかしげた。
「なあ、それ、何やってんの?」
「秘密。」
ケイはにやりと笑って、石をもう一つ丁寧に置いた。
サクは「またかよ~!」と呆れながらも、隣に腰を下ろし、石を並べた。
空は赤く染まり、村に夜が近づいてくる。
今日もまた、ひとつ、未来に向かって備えが進んだ。
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