第131話 贄殿ノ指環



 ◆◇◆◇◆◇



「──どこもかしこも鑑定宝玉の話ばかりでしたね」


「タイムリーな話題だしな。自分達探索者に関係ある事柄とあって話さずにはいられないんだろう」



 リリア達と合流した後、資源ダンジョン〈紅果の森〉へと入った。

 ダンジョンに入る手前の広場で屯っていた探索者達の多くが、少し前に発表されたばかりの鑑定宝玉について話していた。

 鑑定宝玉発表の動画や現時点で分かっていることを纏めた記事などを見ながら話しており、普段とは異なる雰囲気が漂っているように見えた。


 鑑定宝玉の真骨頂は、覚醒者が自らのステータスと能力を確認できること。

 これまでは、実際に使ってみて手繰り探りで自らの力を確認する必要があった。

 能力によっては最初から自覚できるものもあるが、鑑定系のアイテムやスキルが無ければこの方法に頼るしかなかった。

 そうして使って明らかにしても、その能力の全容を理解しているとは限らないため、自らの能力を視覚的かつ文面で明らかにしてくれる鑑定宝玉の有用性は非常に高い。


 鑑定宝玉が普及すれば、おそらくは回帰前と同様に探索者になる覚醒者の数が爆発的に増えることになるだろう。

 そうなれば、各ダンジョンが今以上に混雑するようになるのは明らかだ。

 特に、資源ダンジョンという安定した稼ぎが得られる場所はより一層混雑することになるに違いない。



「アイテム用の鑑定宝玉があれば、プラス効果の珠玉の迷果も見つけやすくなる。そうなると、このダンジョンに潜る者も増えるはずだから、今のうちにできるだけ回収しよう」


「はい。プラス効果の迷果も重要ですけど、クロヤさんの目的の物は別にあるんですよね?」


「ああ。その果実も迷果とそっくりな見た目をしていてな。その判別をする際にも、鑑定宝玉は役に立つはずだ」


「……本当に便利なんですね、コレって」



 リリアの右手の中指に嵌められている1つの指環は、天城コーポレーションのお嬢様であるレイカ先輩から受け取った指環型の鑑定宝玉だ。

 数日前、F県の封鎖地区内にあるダンジョン〈幻想遊戯〉の価値を教えるために直接会った際に、販売を予定している鑑定宝玉を使った製品の試供品を受け取っていた。

 試供品の鑑定宝玉には様々な種類と型があり、リリアにプレゼントした鑑定宝玉は自らのステータス鑑定とアイテム鑑定ができるタイプだ。

 同タイプの鑑定宝玉は指環型だけでなく、腕環型とネックレス型もあり、腕環型はエリスに、ネックレス型はマリヤにそれぞれプレゼントしている。


 自己とアイテムを鑑定できる最も売れそうな2種タイプの鑑定宝玉は、発売初期というのもあって非常に高額になる予定らしく、レイカ先輩から金額を聞いた時は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。

 同ランクのマジックアイテムの平均の約2倍の価格から始まるとは思わなかったが、鑑定宝玉の需要の高さに供給速度が追いつかないのは明らかなので、高価にせざるを得なかったそうだ。

 その初動で得た利益で生産ラインを拡大して、より安価に鑑定宝玉を供給できるようにするとのこと。

 鑑定宝玉を安く販売し、多くの者達に行き渡るようにするという俺との契約が守られるならば、それでいい。



「ちょっと2人共! 話す暇があるなら手伝ってくださいよー」


「あ、ゴメンね」


「マリヤだけでも倒せそうだが?」


「皆でやった方が早いと思いまーす」


「分かったよ」



 遭遇したモンスターと戦っているマリヤから注意され、俺達も参戦する。

 前に出ると、回復魔法と支援魔法でマリヤをサポートしていたエリスの魔法が俺にも付与された。

 20体近くのモンスターの敵意ヘイトを稼ぎながら無双していたマリヤの近くで、俺もモンスターを狩っていく。


 現在地は〈紅果の森〉の中層部であり、モンスターの出現頻度はそれなりに高い。

 〈紅果の森〉の表層部にはアリ系モンスターが、中層部にはカマキリ系モンスターが、深層部にはハチ系モンスターが出現し、それぞれのエリアで多数の群れが縄張りを構築している。

 現在戦っているカマキリ系モンスターの集団もそういった群れの1つであり、縄張りに侵入した俺達へ襲撃を仕掛けてきていた。

 会敵時は20体以上いたカマキリ系モンスターも、俺達が参戦した時には小型のカマキリ系モンスターが12体、中型のカマキリ系モンスターが5体にまで数を減らしている。

 エリスによるサポートを受けたマリヤだけでも充分だったところにフルメンバーで戦ったため、俺達が参戦してから1分足らずで戦闘が終わった。



── スキル【魔喰ノ精霊王バアル】が発動します。

──筋力値が5ポイント増大します。

──敏捷値が7ポイント増大します。

──スキル【捕喰】を獲得しました。


── スキル【魔喰ノ精霊王バアル】が発動します。

──敏捷値が6ポイント増大します。

──反応値が8ポイント増大します。

──スキル【潜伏】を獲得しました。



 獲得したカマキリ系モンスターらしいスキルの詳細を確認した後、それらの死体に向けて手を翳す。

 アーティファクト〈貪欲の聖杯〉を使ってこれらの死体から創造できるマジックアイテムは、前回来た時に倒した死体で確認している。

 特に目を惹くようなアイテムは無く、だからといって解体して素材を売るのは面倒だったので、これらの死体は別のことに使用することにした。



「〈捧げよ〉」



 指環型マジックアイテム〈贄殿ノ指環〉の【贄殿の祭壇】が発動すると、カマキリ系モンスターの死体が粒子となって消滅し、指環に吸い込まれていった。

 〈贄殿ノ指環〉は先日達成したエリスのクエストの報酬で得たマジックアイテムだ。

 死体という贄を捧げることで生じる特殊なエネルギーを、スキルや他のマジックアイテムの能力の発動に必要な対価の代用に使うことができる。

 このマジックアイテムと一緒にクエスト報酬で得た【偽・神秘ノ代償デミ・ディヴァイナー】のためにあるようなアイテムだが、他のスキルや能力の対価にも使えるので中々に有用なアイテムだ。


 死体を必要とするアーティファクトやマジックアイテム、スキルが複数あるので、死体をどれに使うか悩むことになりそうだ。

 まぁ、無駄なく消費できるようになるのは良いことだよな。

 全てのカマキリ系モンスターの死体の吸収を終えると、ダンジョンの更に奥へと進んでいった。



 

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