第4話


 「キーナ、きみが欲しいと言っていたネックレスをようやく手に入れられたよ」

 ほら、と差し出されたネックレスを受け取る。

 いくつもの大きな宝石があしらわれており、色とりどりに光っていた。重たそう。そういえばあの時はこれが欲しいって言ったっけ。

 「ありがとう、ダニー。嬉しいわ」

 にっこりと微笑むと、ダニーは照れたように頭をかく。

 なんだかふにゃふにゃとした男で少し苛立つこともあるが、とりあえずは大事なパイプ役なので仕方ない。

 「ネックレスもいいけれど、ヒルデン国の王子様の件はいかが?あそこの国は大きいし、たくさんの商人が行き交っていて賑わっていると聞くわ」

 笑顔のまま問いかける。

 途端に、ダニーは叱られた子どものように俯いた。

 「ごめんキーナ……そっちはまだで」

 「そう……」

 ため息をつくと、ダニーは突然両手を握ってきた。

 「でも、でもどうにか繋げそうなんだ。探してみると城の門番に知り合いの知り合いがいそうで、そこから……」

 知り合いの知り合いの門番。また遠いこと。

 はあ、ともう一度ため息ついて、ダニーの肩を優しく叩いた。

 「ダニー、大丈夫。じゃあ、そこからお願いね。今日はもう帰ったほうがいいわ」

 「え、でも来たばっかりで……」

 「ハナ」

 名前を呼ぶと、すぐにハナが現れた。

 黙ったままだが、するどくダニーを睨んでいる。

 ダニーは肩を落としたまま「また来るね」と言い、すごすごと去っていった。


 「たまにはああいうお坊ちゃまもどうかしらと思ったけど駄目ね。城に出入りしてるなんて言っていたけどきっと嘘だわ」

 渡してきたネックレスを見つめ、小さくつぶやいた。

 「ハナの方はどう?」

 「はい。身分を隠しておりますが、現在側近に近づいている最中なのであと少しかと。キーナ様にも興味を持っておりました」

 にやりと目を細める。

 ネックレスを投げ捨て、わたしはそのままハナを抱きしめた。

 「さすがハナね。あんなボンボン頼りにする必要なんてなかったわ。」

 ハナの額に軽くキスをする。

 とんでもございません、と言いながら、それでもハナは嬉しそうな表情で笑った。

 「わたしに興味を持っているって、どんなことを言っていたの?」

 何気なく訊ねてみると、ハナの顔が少し曇る。

 苦笑しつつ、ハナをもう一度優しく抱きしめた。

 「いいのよ、教えて」

 「……噂の、国滅ぼしのキーナに会ってみたい、と……」

 「あら。噂になってみるものね」

 うふふと微笑むと、ハナは悔しそうに唇を噛んだ。

 あれから六年。

 十歳の子どもだったわたしは、十六歳の少女となった。


 六年前、母に次いで姉も消え、父はすっかり生きる気力をなくしてしまったようだった。

 部屋にこもりがちになってしまい、外出はおろか、屋敷内を歩くこともなくなった。食事は辛うじて、使用人が持ってきたものを食べたり食べなかったりしていた。

 「このままでは、この家が続くかどうか……」

 困った顔をした大人たちが、難しい話を何日もしていた。

 

 ——ごめんなさい。お姉さま。


 わたしは心の中でそうつぶやき、しまったままの香水を取り出した。

 お父さまの代わりにならなくては。仕方がないの。わたしが家を守る。

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