第5話
香水について、わたしは母よりも姉よりも使い方が上手だったようだ。
家が続きますように、みんなとずっと一緒にいられますように、と香水を使っているうちに、隣国はわたしを巡って争いが起き、いくつかの国が潰れた。
小さいけれど豊かだったあの国は、王がどうしてもわたしを側に置きたいといって勝手に全財産を渡していった。
キーナの自由を奪う気かと、別の国では騎士団長が暴走した。
それを見ていた他の国の権力者が、わたしに父よりも高い地位を与えようとした。
みんながぶつかりあって、争い合って、結局全員倒れたが、わたしにはお金と自由と地位が残った。
それでも誰もわたしを恨まない。わたしが悪いわけではないから。
密かについたあだ名が『国滅ぼしのキーナ』。その名は少しずつ広まった。指をさす人もいるけれど、わたしが歩けばみんな口を閉ざし目で追っているのがすぐにわかった。
もちろん、相手に香水を振りかけるのはいざという時だけだ。自分用に使っている分でも効果はじゅうぶんということだろう。
わたしは予感している。
今はまだ小さな噂だけど。
きっと……。
「悔しいのです。キーナ様は、すっかり動けなくなってしまった旦那様の代わりに、私たちを路頭に迷わせないように、懸命に働いてくださっているだけなのに……本当は、いなくなってしまった奥様や、いまだに連絡のとれないマリィ様のことも気にかけているのでしょう?だから大きな国まで相手するようになって……」
ハナの瞳に涙が滲む。
六年間、お姉さまからの連絡はひとつもなかった。もちろん姿を現すこともなかった。いまのわたしを知っているのだろうか。
最初こそ、ハナの言うとおりみんなのためだったが、果たして現在もそうなのだろうか。
「……そうね。でもわたし、平気よ。ハナも、みんなもいるんだもの」
そう言ってゆっくり微笑む。
そういえば、あれ以来ハナには香水を使っていない。
ハナは……一体、どちらなのだろう。
ちらりと机の上に置いてある香水を見つめる。初めて手にした時から、量は少しも減っていなかった。もしいつかなくなってしまった時、どうなるのだろう。
「みんなを守るから安心して」
わたしは静かにそうつぶやいて、そっと目を閉じた。
その香りは『国滅ぼしのキーナ』 しお しいろ @shio_shiiro
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