第3話
お姉さまの部屋に入ってからしっかりと鍵を閉め、部屋を見渡す。
どこもかしこもきちんと整理整頓されており、自分の部屋とは大違いだった。
おしゃれだったお姉さまはたくさんのお洋服を持っていた。
お気に入りのドレスやネックレス、靴もそのままだ。きっと結婚なんかじゃない。さらわれてしまったのだ。
それよりも……あれはなんだか変だ。何か手掛かりはないだろうか。
棚を開けたり、ベッドの下をのぞいたり、見えない何かを探す。
そしてお姉さまがよく使っていた机の引き出しを開けた時、違和感を感じた。
……不自然に、途中までしか開かないようになっている。
引き出しはちょうどわたしの腕一本がようやく入るほどの隙間で、思い切って手を突っ込んでみる。
何かを触った感触があった。
……これは……手紙?
引っ張り出すと、真っ白な封筒が姿を表す。右下に、以前一緒に庭で摘んだ花を押し花にしたものが貼られていた。
『キーナ
きっとあなたは、香水を誰かに振りかけてしまったのね。優しいあなただから、もしかしたらねだられて貸してしまったのかも。もう少し強く言っておくべきだったかしら。
あの香水は……そうね。分かりやすく言うと、惚れ薬みたいなもの。
自分に振りかけておく分には問題ないわ。みんながあなたを好きになる。少しずるいと思うかもしれないけれど、これは地位あるお父さまを支えるために必要なことでもあるわ。
ただ、特定の誰かに振りかけたり、使わせては駄目。
少し……強いみたいなの。においをかいだ相手は老若男女関係なくあなたに夢中になる。文字通りね。そして……狂うの。
今回結婚するお相手も、本当に大好きだった。彼もわたくしを大事にしてくれていた。でも、信じきれずに、彼に振りかけてしまったの。その時からどうもおかしくなってしまって……もしかしたら、わたくしはもうあのお屋敷から出られないかもしれない。
いなくなってしまったお母さまはね……今、森の中でひっそりとひとりで静かに暮らしているわ。実はわたくし一度だけ会いに行って、その時にこの香水をもらったの。
誰からも好意を向けられる日々に耐えられなくなってしまったと泣いていたけれど、その時はさっぱり言っている意味がわからなかった。でも今はほんの少しだけ、わたくしもわかるのよ。
どう使うかはあなた次第だけれど、きっと良いようにしてくれると信じているわ。また会える日を信じて。
マリィ』
手紙を持つ手が震える。
嘘だと思ったが、先ほどのハナを見る限り全く信じられない話ではなさそうだ。
その時、ドンドンとドアを叩く音がした。びくりと体が跳ねる。
「キーナ様ぁ?どこ?」
ハナの声だ。
一度深呼吸し、手紙を丁寧に折りたたむ。
封筒にしまったあと、香水と共にそっとポケットの中へ入れた。
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