第20話 旅立ちの日
旅道具一式とそれなりの金を貰ったことで、ひとまずこの世界でもしばらく生きられる状態になった。
「本当にありがとうございます、サイキ様! まさかあんなイカレた対戦相手が、こんなにも慈悲深いお人だったとは」
「シバかれてえのか。てめえ」
その言葉にキリアが一歩近づくと、ケイジールは悲鳴をあげた。もうキリアをバカにすることはなさそうだ。
「そ、それで、サイキ様はこれからどちらに? ここらの土地ははじめてのように思えますが」
「そうだなー、とにかくここら辺のことを知りたいから街でも探すよ」
「でしたら、ここから北へ行けば一番近い国の『ユニギン王国』がありますよ。そちらへ行かれてはどうでしょう」
「ユニギン王国……そこに行ってみるか」
「そうですね! サイキさま、行ってみましょう!」
キリアも賛同してくれた。
「てか、キリアちゃん? まだ何にもそのことについて話してないけど、ついてくる気なの?」
「え? サイキさま、ウソですよね……?」
「え? サイキ様、ちょっとそれは……」
二人して俺を責めるような目で見ないでよ……。
キリアは鼻息をフンスと鳴らして言う。
「だって私、賭物としてサイキさまに奪い返してもらったんですよ? そりゃもうサイキさまのものですから!」
「言い方がなんか下品なんだよ……」
「いいえ。これは事実ですよ、サイキ様。ワタシがこのようにキリア様を奪おうとすれば——」
ケイジールに雷が落ちる。
「……ご、ご覧の、とおり、に」
「あんた、結構ユーモアあるんだな」
だが、これだとキリアを所有物のように扱っているみたいで俺の気分がよくねえよ。
「なんとかならんものか」
(できますよ)
「うわあっ!? 尻から声が漏れてきた!? 誰だ!? その声、女神か!」
(そうですよ。あと尻からではないです。あなたのポケットにある金貨から声を届けています)
盗み聞きしていたのか。俗物な女神め。
「それで、どうすればいいんだ」
(権利を放棄すればよいだけです)
「よしわかった。放棄する。手続きよろしく」
「ええー!? めっちゃ早くないですかぁ!? サイキさまぁ!?」
(サイキ様、終わりました)
「早いな!? よし、ケイジール。ワンモア」
「マ、マジですか?」
俺がケイジールを煽ると、ケイジールは仕方なくキリアをすこし引っ張った。何も起きない。
かわりにキリアも俺をすこし引っ張る。
「なんで俺を引っ張るなよ、キリアちゃん」
「私、サイキさまについていきたいです……」
「いや、ダメとは言ってないけど」
「え? だって、今……」
「法力で縛られた関係が嫌なだけだ。ついてくるのは好きにしたらいい」
途端にキリアの顔が、ぱぁっと明るくなる。
「やったぁーー!」
まあ、俺も一人じゃ不安だからな。……魔獣とか、とくに。
進路も決まったところでケイジールが話を締めに入る。
「それでは、ワタシはこれで。お二人とも、お気をつけて」
「そっちはこれからどこへ向かうんだ」
「田舎にでも帰ろうと思います。……アナタと真剣に法力勝負をしてみたら、なんだか憑き物が取れたようで。親にも……しばらく顔を見せていませんし」
「そうか。遠いのか?」
「ええ、結構」
「そっちも長旅になりそうだな。まあ、法具があればなんとかなるか。何かあっても身を守れるしな」
ケイジールはすこしだけ言葉を止め、またゆっくりと話す。
「やはりサイキ様は、すでに法力の重要性をわかっているのですね。カハハ、ワタシが負けるわけだ」
「悪い気はしないぜ」
「しないぜ」
無邪気に真似るキリアをケイジールは見つめて話す。
「キリア様。どうかワタシの非礼をお許しください」
「もういいってー」
「ありがとうございます。ですが、これから行かれるユニギン王国は秩序が保たれておりますが、まだワタシのような差別的なバカもおりますので、お気をつけください。では本当にこれで」
「気をつけてな」
「またねー!」
去っていくケイジールに、俺とキリアは手を振って見送った。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「はい! 行きましょう!」
俺とキリアは、北へと旅立つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます