第二章

第21話 明日は王国へ


 ユニギン王国を目指して3日目。

 俺とキリアはキャンプをしながら北へと向かっていた。





「ほっ、法力勝負ー!? 法力勝負ぅぅぅぅ!!!」




 森の中を逃げ惑いながらそう叫ぶが、法力勝負のためのバリアは展開されない。


 背後からは、木々がバキバキとへし折れる音が迫ってきている。



「ブモオオオッ、ブモビモオオオ!!」



 さっきからバカでけえ猪のような魔獣が、鼻息を荒くして俺に人生おやすみのチューを仕掛けようとずっと追い回してきやがる。



「キリアちゃぁあーんッ!! 助けてぇえー!! はやく帰ってきてぇええー!!」



「ただいま帰りましたぁ! フンッおらぁ!」

「ブモオオオオオ——グフッ!?」



茂みから飛び出してきたキリアは近くの大岩を持ちあげ、魔獣の頭部に叩き落とす。



ズドン、という重い音を立てて猪の魔獣は動かなくなった。



「川で魚はとれませんでしたが、夕飯は決まりましたね! サイキさま!」


「……ハァ……ハァ……こ、これ、食えるの?」


「大丈夫ですよー! 普通の猪より大きいだけですから! 多分!」


「本当に大丈夫かよ……」


「じゃ、今から捌いちゃいますね!」




 キリアは手際良く猪の魔獣を夕飯にしていった。しかしその大半もキリアが食べていった。オーガは力もすごいが食もすごいな。


 夕飯を終える頃にはあたりも暗くなっており、俺とキリアは焚き火の残りを囲ってひと息つく。



「地図によれば、明日にはユニギン王国に着くだろうから、これでキャンプ生活も終わりだな」


「キャンプ楽しかったですねー」


「そ、そうか。楽しかったなら、それでいいか……」


 俺はこの3日間、魔獣に遭遇しないように毎日ハラハラしてばかりだったがな。でもキリアがいたおかげでなんとか旅ができている。



「キリアちゃんには随分と助けられているよ。ありがとう」


「ちょ、ちょっとサイキさま、急に褒めても私、もう何ももってないですからね!」


「俺、そんなにがめつく見える?」



 いや待て、たしかに金貨は返してないが。


 俺はポケットから法力の宿った金貨を取り出す。


「魔獣には発動しなかったな、法力。やはり知性のある生物相手じゃないと使えないらしい」


「追いかけられているときすごく叫んでいましたからね『法力勝負ー!』って」


「忘れなさいキリアちゃん」



 バリアが展開されるか、バリア内に入れて暴力行為を法力勝負のルールで止めてもらおうと思ったのが失敗だった。


 キリアが火をいじる。

 この火はキリアが魔術でつけたものだ。


「普段使いなら、法術よりも魔術のほうが便利そうだな。法術より制限なさそうだし」


「それはそうですよ、法術といっても法力をちゃんと扱えるのは七法神だけですから。神様以外には法術は扱えません。私たちはあくまで法具に宿る法力をお借りしているにすぎませんから」


「借りているだけなのか」


「はい! だから1日に1回しか法力勝負を発動できませんし、色々と制限があるわけです。なにせお借りしているだけなので」


「なるほど。しかしやけに詳しいじゃないか」


「えへへ、じつはお母さんから教えてもらったんですよ。法術のこと。それと火の魔術もお母さんに教えてもらったもので、あとその金貨もお母さんの形見なんです」


「これ、形見だったのかよ!? じゃあ返すよ! あと放り込むなよ、そんな大事なものを湖に!」



金貨を返そうとすると、キリアは両手でそれを拒んだ。



「いいんです! お母さんは困ったときに使いなさいって言ってましたし、そのおかげで私はサイキさまに助けてもらえたんですから。それはサイキさまのものです」


「でも、形見だろう……」


「じゃあ法力勝負で決めますか? 勝ったほうが金貨の持ち主で」


「お、おい……俺は、勝っちまうぜ?」


「フフ、ではサイキさまのものですね。私だって感謝しているんですから、素直にもらってくださいな!」


「……ありがたくもらっておく」


「へへへ!」


「じゃ、明日にむけてそろそろ寝るか」


「はい!」



 明日はいよいよこの世界で初めての国を拝めるわけだが、さすがにギャンブルに準じた何かがあるはずだ。ワクワクしてきたぜ。……眠れるかな。




 





 ——深夜。





「ブモオオオオウオブモオオオッ!!」


「キリアちゃん助けてぇ魔獣ぅ!!」

「もぉ、うるさいですよー……オラァ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る