第18話 運命の5回戦
——
バリアの外から勝負を見守っていたキリアは、ウィンドウを見ながら胸を昂らせていた。
「す、すごい……すごい! すごい!! 相手の残りの手札も当たってる! サイキさまはやっぱり、キュウセイシュさまだったんだ……。私じゃ、……こうはならなかったなぁ」
無力感と、忌避される自分が、嫌になる。
「ダメダメ! サイキさまが私のために戦ってくれているのにこんな顔をしてちゃあ! サイキさまー! 聞こえないと思いますけど頑張ってくださぁーい!」
それでもキリアは前を向いた。
——
「残り勝負は2回で、2対1。ここで負けると、あんた詰みだぜ?」
「わ、わかっているわ!」
おー、焦ってる焦ってる。
……とはいえ、ここが俺にとっても正念場なんだよなー。気付いてなきゃいいけど。
「……ん? しかし待てよ……」
あっ。
「おい、貴様。よくも散々と罵ってくれたな! お前こそ、このどちらかで一勝できないと負けが確定しているではないか!」
「……バレちゃった?」
「このう、ナメくさりおって……!」
そうなんだよなー。
ケイジールからしたらもう俺の手札の残りは『グー』と『チョキ』が、
0枚と3枚
1枚と2枚
2枚と1枚
のどれかだってバレてんだよなー。
俺の最初の手札構成は、『グー』5枚、『チョキ』2枚。
残る手札は、
『グー』1枚に『チョキ』2枚だ。
ケイジールなら『パー』を4枚用意すると思っていたが読みが外れ、思ったよりも『チョキ』で『パー』を刺せなかったのが痛いな。とくに2回戦目のやつ。……まったく、あそこを読み違えるとは俺もまだまだ二流だ。
「まあいいさ。で、てめえはどうすんだ?」
「何が言いたい……?」
「こっからは、五分の勝負ってことだよ」
……お、ヒリついた顔するじゃねえかよ。
「てめえの手札は、『グー』『チョキ』『パー』のそれぞれ1枚。で、俺は『グー』か『チョキ』かのどちらかだ」
「……」
「俺の手札に『チョキ』しかないと思うなら、そっちは遠慮せず『グー』を出せばいい。あとは『チョキ』で引き分けにして2対2で俺の負けだ」
「…………」
「だがもし俺に『グー』があって、そのときてめえも『グー』を出して引き分けたら、あとはどうなるか、わかるよな? 残る手札は、俺には『グー』と『チョキ』。てめえには『パー』と『チョキ』。俺は『チョキ』を出すだけで勝ちか引き分けがもらえる。ま、そこでどうなろうが最終的な勝ち数は俺のが多い。それで、てめえの負け。わかりやすいだろ?」
「……本当に、五分の勝負というわけか」
「ああ。その通りだ。ここが勝負どころってやつだぜ」
奴からも、俺からも、緊張感がまるで冷気のように垂れ流れている。
これだよ、これ。俺の好物は。
「二人とも、よろしいですか。それでは5回戦目のカードをセットしてください」
ケイジールと俺はカードをセットする。
頭上に現れる、運命を決めた巨大なカード。
これが反転すれば、勝負が決まる。
「この詐欺師め」
「あ?」
「なんで……私が『パー』を出すパターンは提示しなかった?」
「……!?」
ケイジールは、ニヤリと笑っていた。
「おかしいと思ったんだよ。『チョキ』は言わないにしても、私にはもう一つの『パー』のパターンがあったのに、どうして頭の切れるお前がそこに触れなかったのか」
ケイジールは淡々と独白をつづける。
「この『パー』を出すパターンは五分じゃないからだよ若造。忘れちゃいまいな、この仕組みを! 『グー』は『パー』に25%で勝てるが、しかしっ! 逆を言えば75%で『パー』が勝てるということ! これは五分どころの話ではない! 七分超えだ!」
俺は、興奮するケイジールを眺めることしかできなかった。その口は止まらない。
「そもそもだ! この5回戦自体、五分の勝負なんかじゃない! お前が提示したのは、あくまでもワタシが“『グー』を出した場合の勝敗パターンを2つ提示した”にすぎない!! これは論点のすり替えだ!!」
「何言ってやがる……五分の勝負だぞ」
「ガハハハッ! 言ってろ! だがもう遅い! まあそれでも、ワタシも25%の確率で負けるのだからなぁ! 安心とは言えんなぁ! ……そうか、これがお前の言うヒリつきというやつか! わかった、わかったぞぉ!」
『カード、オープン』
ケイジール:『パー』
サイキ:『チョキ』
「…………………………『チョキ』?」
なんちゅう顔してんだよ。外から見ているキリアに悪影響だろうが。
「だから言ったろ。五分の勝負だと」
これで3対1。俺の勝ちが、確定した。
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