第12話 《特殊ジャンケン》開始


『1回戦目のカードをセットしてください』


 俺はカードを選択する。


 すると頭上には大きなカードが現れる。


 さっきも見ていたが、すごいなこのホログラムのような技術は。現代でも拝むことはできねえ。……この技術をうまいこと持ち帰れば俺も大富豪に……いかん、集中しろ。



『お互いにカードをセットしました。それでは1回戦目のカード、オープン』



 女神ザインの言葉とともに、頭上のカードが裏返る。




 サイキ:『グー』



 ケイジール:『グー』




 ……まずは予想通り。



『1回戦は、引き分けです』



「……ふう」



 あの様子…………もうちょい、揺さぶってみるか。



「おいおい、ケイジールさんよ。初っ端から『チョキ』を出すほど俺も捻くれちゃいないぜ」


「う、うるさい!」



 むこうはまだ本調子じゃない。

 対して俺の予想は当たりだ。


 保守的に安牌の『グー』を出してきた。


 様子見といえば聞こえはいいだろうが、一歩逃げたようなものだ。



 ここでいきなり『パー』で仕掛けてくるようなら、読みも外れて、相手に心理的にも数字的にも大幅なアドバンテージを持っていかれるところだった。



 なにせ俺の手札は、『グー』が1番多い。



 あれだけキリアに『グー』の弱点を説いておきながら、しっかり『グー』を多めに入れているんだからな。

 きっとバリア外で、やーのやーのと言われていることだ。



 ——


「サイキさま!? あれだけ私に言っておきながら『グー』が1番多いじゃないですか!?」


 ——



 だけど、ケイジールの目にはそうは映らない。


 俺が『グー』と『チョキ』のみを選んだことで、奴は自分の握っている『パー』が途端に弱くなったことに気づく。かつ、『パー』に勝つための『チョキ』を俺が多く持っていると悩むはず。



 そして俺は言った。

“勝つか負けるかの二択”と。この言葉に引っ張られて、俺の手札の偏りにはすぐには気づかない。



 25%で負けるか、100%で負けるか。



 手札の『パー』を出せばこの二択で、勝率は50%未満だ。



 逆に『グー』を出せば、俺の手札に勝つことはあっても負けることはない。



 そりゃあ最初に『パー』は出せない。

 

 さらには、何枚持っているかはわからないが『チョキ』も尚更だ。



『チョキ』を出してくるなら、逆に俺が負けない。



 今、奴の手札で1番強いのは『グー』だ。



 今回の勝負は、ケイジールはいかに『グー』で俺の『チョキ』を仕留めるか。

 俺はいかに『チョキ』でケイジールの『パー』を仕留めるか。


 ま、結局のところ本質は《ジャンケン》だが、回数制限と性格とが合わさることで、単純な運ゲーじゃなくなるわけだ。やっぱりこのゲームは面白い。



 ケイジールがその限りある強い『グー』を序盤で逃げるように使ってくるなら、俺はただただ大量の『グー』をぶつけて潰していくだけ。

 おまけに『チョキ』を多めに持っていたなら、幸い。不運にも『パー』を出されても25%で勝てる。



 だが、まだまだこのゲームの勝利には遠い。

 このあとの2回戦目……いや、ここからのひと勝負ひと勝負が、大きな意味をなしてくる。


さて、奴は次に何を出す?


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