第10話 金貨の価値


 だが、動揺したもののケイジールは嘲笑う。


「法力勝負だと? お前、『法具』を持っているのか?」


「『法具』だ?」


「アッハッハッハッ! どこの田舎者だね? そんなことも知らないとは! 『法具』がなければ法力勝負は発動できないのだよ! まったく、女神ザイン様! この愚か者の言うことは聞かないほうがよろしいかと!」



『彼は《法具》を持っていますよ』



「え?」


「え?」



 俺まで驚いちまった。

 そんなものは持っていな……いや待てよ?



「もしかしてコレのことか?」



 俺はポケットに入っていた金貨を取り出した。ザインは言う。



『それです。私の法力がかかっている道具、その金貨は法具です』



 よく見たら彫刻されている横顔がザインじゃねえか。



「や、やっぱりサイキさまは……キュウセイシュさまなんだ……!」



 キリア、そんな目で見られても俺は救世主なんて柄じゃねえよ。




「……まあいい、今日くらいはなってやる」




 俺は女神ザインとケイジールの前に対峙する。



「勝負しようぜ。法力勝負だ。キリアは返してもらう」



「田舎者がっ! 調子に乗りやがって! ……いいだろう。勝負してあげようじゃないか」


『法力勝負、承認します』



 再び例のバリアが、今度は俺が内側に招待された。キリアは外へ。



『法力勝負を発動したサイキ様から先に賭物を要求できます。何を要求されますか』


「もちろんキリアだ」



 そう言うと、ケイジールが嘲笑う。



「やはり田舎者め。賭物は同等に近いものでないと成立しないんだぞ。まさか仕掛けておいて何もないとは言わせないぞ。最悪、お前自身が賭物になれば成立するがな」


『次に、ケイジール様。賭物は何を——』


 俺は金貨を眼前に出した。


「おい。この金貨、法具でどうだ」




 ケイジールはおろか、女神ザインすらも驚愕していた。




 だろうな。


 なんの能力もない一般人の俺でも簡単に法力を行使できるようになるブツなんだからよ。これが安価なわけがない。



「どうする、ケイジール? 同等レベルじゃないといけないんだろ? まさか拒否するか? いーやしないね。その目の色は、欲しくてたまらないんだろ」


 ケイジールが鼻息を荒げた。


「当然だろう! それは、それはな! 売却すれば一生困らない額にもなる代物なんだぞ!」



「……コレそんなに高いの?」



 なんだか賭物にしたくなくなったな。


 ——


「ちょ、ちょっと! サイキさま! 顔に出てますよ!」


 ——


「本当に何も知らない田舎者のようだな……。生きているうちに法具を二つ手にする機会は、星が地に降り落ちる機会より少ないと言われているが……フフフッ、まさかその機会がワタシのもとにやってこようとは……ワタシは混血の娘のほかに、ワタシは……祖国にあるワタシの土地を賭けよう! これでどうです! 女神ザイン様!」



 ザインは俺に言う。



『賭物の価値はサイキ様のほうがまだ上ですが、これで了承することもできます』


「いや、キリアだけでいい。品のない人間の土地なんかいらねえ」


「!? このクソガキ……善人ぶりやがって」



 おーおー、荒れてるねえ。


 俺は言葉を付け加える。



「そのかわり、だ。さっき見ていたのと同じ《特殊ジャンケン》で勝負させてくれ。ほかの難しいルールのゲームがきたら俺が覚えるのも一苦労だからな」


『それでもよろしいですか。ケイジール様』


「フン、それくらいはいいだろう」


『決定しました。サイキ様の賭物は、法具の金貨。ケイジール様の賭物は、キリア。その他、交渉により今回のゲームは《特殊ジャンケン》とします』



 そして女神ザインは宣言する。




『それではこれより、法力勝負を始めます』




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