第5話 不利という有利



「ど、どうしてですか!? たしかに叔父さんは弱いけれど……でも、でも! まだ負けたわけじゃないですよ!?」



 たしかに可能性は当然、ある。



「キリアちゃん。君ならこのゲームの手札をどう選ぶ」


「はぇ? ……えっと、そうですね…………『グー』は、『チョキ』に勝てるし『パー』にも……えーっと、4分の1で勝てるから、『グー』をすべて手札にしますね」



 キリアの考えも間違っていない。

 

 だがそれは、あくまで数としての話だ。



「たしかに。普通のジャンケンなら引き分けをのぞくと勝つ確率は50%。それなら『グー』はそれ以上だから当然、強い。じゃあ、この《特殊ジャンケン》のルールで一回だけ勝負してみるか」



 言われるがままにキリアは俺とジャンケンをする。彼女は素直に『グー』を出す。俺は『パー』を出した。



「私は『グー』なので、サイキさまの『パー』には4分の1で勝てますね」


「そうだな。つまり俺は、君の『グー』に4分の3で勝てるってことだ」



 ハッと驚くキリア。


 そう、これが《特殊ジャンケン》のミソだ。



 一見、『パー』が弱いように見えるが、相手が数の有利に囚われて積極的に『グー』を握れば握るほど、『パー』が強くなっていく仕組み。



 わかりやすく言えば、全部『グー』と全部『パー』の対決なら、全部『パー』の勝率は75%と、通常のジャンケンの勝率の50%を大きく上回る。



それに『パー』は引き分けになった際に勝敗を決める、まさにキーカードでもある。




 キリアのように数字通り安全に『グー』を多く入れるか。


 それを見越して『パー』で迎え撃つか。


 ひねくれて、その裏を狙って『チョキ』を選ぶか。


 それとも、バランスよく構えるか。


 もちろん、出す順番も深く関係してくる。



 すなわち、



「このゲームは単純な運や確率の勝負じゃない……いかに相手の“性格”を読み切るかの勝負になる」



「ど、どうしよう……。叔父さんの性格なんか、だれが見てもわかっちゃう……」


「見た目からして保守的な感じっぽいしな。強い『グー』ばかり選んでそうだ」



 俺は言葉を念じて、空中にウィンドウを出した。



「これで互いの手札の内容を閲覧できるみたいだ。見てみるか」





 ―プレイヤー情報―


1・ケイジール


 【残りの手札】


  『グー』×1

  『チョキ』×0

  『パー』×2


 【勝ち数:2】



2・ジゴベ


 【残り手札】


  『グー』×3

  『チョキ』×0

  『パー』×0


 【勝ち数:1】




「…………お、叔父さん、どっち?」




「…………ジゴベ、です」


「ああん! やっぱり!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る