第4話 《特殊ジャンケン》
村落の広間には、女神ザインのほかに幸の薄そうなヒョロっとした中年の男と、身なりが良さそうな商人らしき小太りの、これまた中年の男が対峙していた。
中年同士が対峙する中央に宙に浮かぶ女神……AI生成されたみたいな絵面だ。
それと、不思議な現象も起きている。
女神ザインとその二人を覆うように、半透明の大きくて四角いバリアが展開されていた。
「なんだこれ。すごいな、こ――うぎゃっ!?」
「サイキさま! さわっちゃダメです! それは他の人に勝負を妨害させないようにするために法力で展開されたバリアですよ! 触ると電撃でしびれますから!」
「……もう知ってる」
ずいぶんバチッとしびれたぞ。
……だが、そういうことか。
外からは中が見えて音も聞こえるが、中にいる彼らは俺たちの存在に気付いていない。
観賞はできるが、干渉できないようになっている。
ただし、このバリアを展開していると思われる女神ザインには気付かれているようだ。
「たしかに、これなら第三者から勝負の妨害はされないだろうな」
「どうしよう、叔父さん……法力勝負なんか弱いのに……」
そう言って薄幸そうな男に目を向けるキリア。
「あの人、君の叔父さんだったのか。でも君のように角も生えてないし、オーガには見えないが」
「そ、そうですね……。私、オーガと人間のハーフですから」
彼女は俯いてそう話す。
……なんだか事情がありそうだな。
よし、この話はヤメにしよう。
「うーん、バリア内でどんな勝負が行われているのか知りたいんだがなぁ……ちょっと距離があって、何をしているのかイマイチわからねえな」
「あっ、それならですね! 法力勝負が行われているときには、その周辺で『ルールオープン』と念じれば、ほら」
「……なんか、ウィンドウがでてきたぞ」
目の前に浮かぶようにエレクトリックな画面が現れる。
なんで異世界ってこういうことができるんだ?
……いや、待て。
そんなことを言ったらパチンコ屋で勝った景品を、たまたまパチンコ屋に隣接している古物商が、偶然にも景品を買取してくれて、奇跡的にも現金化できる、奇跡の連続にも言及しなくちゃいけなくなる。
こういうことが、できる!
それがわかれば、よいのだ。
「サイキさま? なにかを揉み消したかのような悪い顔してますよ?」
「これはできる大人の顔だ」
さて。勝負の内容、見てみるか。
この空中に浮かぶウィンドウをスマホのように指で動かせばいいのか? お、そうみたいだ。
画面には、法力勝負を行う際のルールと、現在行われている《特殊ジャンケン》のルールが記載されていた。
ほう、《特殊ジャンケン》……ゲーム名もそそるじゃねえか。
俺は法力勝負時のルールをざっと読み流し、《特殊ジャンケン》のルールに注目した。
―《特殊ジャンケン》のルール―
はじめに・
このゲームは『グー』『チョキ』『パー』のカードを消費してジャンケンを行い、勝敗を決めるゲームである。
1・手札が合計で7枚になるように、『グー』『チョキ』『パー』から好きな枚数を選ぶ。
2・選び終えたあと、プレイヤーがどのカードを選んだのか互いに開示される。ただし、枚数は開示されない。
3・その後は、お互いに手札を一枚ずつ消費して、カードでジャンケンをして勝ち負けを決めていく。
4・特殊効果として『グー』は、25%の確率で『パー』に勝つことができる。
5・ジャンケンを6回行い、最終的に勝ち数の多いプレイヤーが勝者となる。ただし、6回行っても勝ち数が同じだった場合は『パー』のカードを手札に多く選んでいた者を勝者とする。
――
なるほど、なるほど。
単純な運だけのゲームじゃなさそうだ。
キリアは心配そうな瞳でバリアの先を見つめながら、打ち明ける。
「叔父さん、あの商人に何度も法力勝負を挑まれて負けているんです! それで賭物をたくさんもっていかれちゃって……。この村の家畜とか道具とかも賭物にしちゃって……叔父さんは、なんとか取り返そうとするんだけど……」
「泥沼にハマっていったわけか」
キリアは、悲しげにコクリとうなずく。
取り返そうとして、また負ける。その繰り返し。典型的なギャンブル中毒だ。
「それで、それで村のみんなは出ていっちゃったし……だから、キュウセイシュさまを呼んで助けてもらおうって、私、思ったんです!」
でもそれで現れたのが、カウンセラーじゃなくてギャンブラーか。
ある意味で、運命的だ。
「こういうのは俺がどうこうするよりもキリアちゃんが説得したほうが効果あると思うんだけどねぇ」
「…………叔父さん、頑固で負けず嫌いだから、あまり私の話、聞いてくれないの……」
痛い目を見ても、まだわからないか。
いや、わかってはいるが……ってやつか。
それなら、また痛い目を見ることになるだけだ。
「先に言っておくけど、キリアちゃんの叔父さん、今回の勝負も負けるよ」
「え……?」
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