第2話
白雪は東京の郊外出身で現在16歳の高校生。幼くして母を亡くし、家に白雪を一人で置いておくことを心配した父が、白雪をスカウトして来たプロデューサーの話に乗ってアイドル活動を勧めたという。アイドル活動中は、事務所の送迎付きで、相談に乗ってくれる女性マネージャーもおり、多少の報酬も出るため、白雪は断るまでもなかった。
デビュー前のトレーニングを重ねると、歌唱力をメキメキと伸ばし、ファンへのアピールを磨き、アイドルとしての力をつけていた。
白雪は特にチームワークに長けており、後から加入してそれほど時間も経っていないのに、練習の中でメンバーとのつながりを強めて、パフォーマンス中もメンバーの意を汲んでいた。
未経験のダンスも及第点が見えてくるほどに覚えた。
そしてアイドルとしての能力が認められると、白雪はライブで盛大にお披露目された。
澄んだ声の歌と精一杯のダンス、そしてこれまでにない美しい容姿はファンに好意的に受け入れられた。
デビュー後、白雪がレッスン場に来ると、白雪の顔に変化があった。
白雪がメイクをした状態で来た。白雪の白い肌に乗った色は彼女をより華やかにしようとしているが、どうも古臭い感じがしていた。
メンバーは白雪のメイクに戸惑った。
「気づいていただけて嬉しいです。実は皆様に近付きたくて私もメイクをしてみました。母の物を借りて、雑誌を参考に見様見真似ですが……初めてするものですから、他の人の目にも見えているか不安で、他の人から見てもわかるようになっていてよかったです」
白雪はほっとした様子で笑った。
白雪は慣れないメイクで失敗したようだ。そんな垢抜けない身なりでアイドルとしてステージには立てない。美麗は白雪の常識を疑わしく思い、心の底でコケにした。
顔は良くても何も知らない小娘。美容の知識と技術を共に揃えた私とは大違い。私は容姿に厳しい美容整形界隈も認める美しさなのだ。こんな有様じゃ私と同じ土俵にも立てない。
言葉も出さずにじろじろと白雪を見下した。
「え〜そうだったんだ〜! 言ってくれたらあたし教えるよ〜!」
「うちのおすすめ教えるよ! こっち来て!」
他のメンバーは白雪が打ち明けたことを聞くと打って変わってメイクを教えようとした。白雪は彼女たちにメイクを施され、SNS発の最新の技を教わる。
インフルエンサー仕込みのメイクに変わった白雪は、誰が手を伸ばしても届かないような美しさになった。
毎回凝ったメイクをするのは難しいことから、未成年でメイクなしでも美しい白雪は特別な時だけメイクをすることになった。素の美しさを評価された白雪はメイクなしでライブに出ることもあった。メイクをすることで完璧な人形のように美しくなった白雪と、自然に咲く花のように純粋な美しさを放つ素顔の白雪、この二つがファンの目をより惹きつけることになった。
一回、二回とライブを重ねると、フロアには白雪のイメージカラーである白のサイリウムが現れた。
だから美麗はライブが終わると鬱憤を晴らしにファンの集まりへ向かった。
今日の集まりには誰かが連れて来たらしい新顔の姿があった。
美麗はいつもの通りに「鏡よ鏡……」と呼びかけた。
すると一瞬の間の後に、「白雪ちゃん!」と新顔が声を上げた。
「お〜白雪ちゃん推しになっちゃう?」
「はい! 白雪ちゃん、ほんっと輝いてて、歌もすごくて、応援したいです!」
「わかるよ、今日の白雪はすごかった」
ファンたちはそのまま白雪のことで盛り上がった。
美麗は頭に血が沸き上がり、ズカズカとその場を去る。
自宅のマンションに戻ると、オートロックの扉が外界を遮断し、美麗はリビングの床に携帯を叩きつけた。
「私を馬鹿にすんのもいい加減にしろ! クズッ! 見る目のないクズが! さすがアイドルの追っかけするしかない負け組のカス人間! カスどもに褒められた程度で調子に乗んなよ! メイクもまともに出来ない、片親育ちで常識もない、チビの芋女! 白雪は顔が綺麗なんじゃなくて無能でも守れそうに思えるくらい弱いから可愛がられてるだけなんだよ!」
美麗はあたりに物を投げつけ白雪たちを罵倒し続けた。
美麗が今の顔になってからトップクラスの評価を受けない時がなかった。
美麗が理想とするのは欠けのない完璧な美しさ。欠けのない完璧な美しさこそが一流で、それこそが人間の理想。一流は見る目が正しいから一流に惹かれる。欠けた人間への褒め言葉は全て二流以下の負け惜しみ。自分の容姿は一流だし、完成された自分こそが世界に評価されるべき。そう信じて疑わなかった。
しかし周囲が一番関心を持っているのは美麗の美の基準に達しない白雪だった。
そこで美麗はどんな手を使ってでも白雪を排除することにした。
アイドルとプライベートでの関わりを持って"食う"ことで有名な男を呼び出し、大金を提示して、白雪を襲って破瓜の血を持ってくるよう命じた。
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