第6話 Scarlet視点

「じゃあね、ひかり! 舞! あの新作クレープ、マジで神だったわー! 限定とか言わないで定番にしてほしいくらい!」


夕焼け小焼けでまた明日、なんてのんきな歌とは裏腹に、私は光の速さでひかりと舞に別れを告げ、家路を爆走! 期間限定のいちごミルフィーユクレープ、もう一個胃袋に叩き込みたかったけど、今日は特別! だって、家に帰ったら、もっとドキドキワクワクすることが私を待ってるんだから!


「ただいまー!」


玄関のドアを勢いよく開け、リビングに学校用の手提げバッグを放り投げるように置くと、一目散に自分の部屋へ。お目当ては、机の上に鎮座する最新型のARゴーグル。これ、パパに「新しいゲームがやりたいの! 世界と繋がれるやつ!」って熱烈にお願いして、特別に海外から取り寄せて貰った特注品なのだ。普通のAR機能はもちろん、最先端のVRゲームにも完全対応してるっていう、まさに夢のようなガジェット!


「よっしゃあ! ログイン! 私の最強伝説、開幕だー!」


ゴーグルを頭にガチャンと装着すれば、目の前には『Game Nexus』のクールな起動画面。パパの会社の人が「温ちゃんなら絶対ハマるよ!」ってニヤニヤしながら教えてくれたこのゲーム、マジでヤバいの! 特に、300万円で

私のゴッドハンドがいきなり引き当てた、このピッカピカの『Holy Knight』! SSRよ、SSR! 見た目も強さも、まさに私にふさわしいって感じ!


ログイン完了! まずは小手調べ、ウォーミングアップといくわよ! Holy Knightに完全憑依! AIが操作するN(ノーマル)のザコキャラども相手に、私の華麗なるVRアクションを見せてやる! 剣をビュンビュン振り回し、盾でガキンとガード! ステップでヒラリとかわす! くぅーっ! やっぱりこのHoly Knight、動かしてるだけでテンション爆上がり! まるで私が本物の騎士になったみたいで、もう無敵な気分!


本当はね、一緒にゲットしたSRの『Cat』ちゃんと『Sniper』ちゃんも動かしてみたいんだけど…。うーん、でも今日は宿題地獄が待ってるし、後で生徒会の四ノ宮先輩から大事な(たぶん)連絡が来るって言ってたし…。まあ、いっか! Holy Knightがいれば、大抵のことはパワーで解決できるっしょ! 細かいことは気にしないのが私のジャスティス!


「よし、実践あるのみ! 習うより慣れろ、って言うじゃん?」


AI相手の肩慣らしなんて10分もあれば十分! 意気揚々と「タッグマッチ」のボタンを親指でプッシュ! さあ、どんな面白いヤツと組めるのかなー? できれば、私の足を引っ張らない、そこそこ強いヤツだといいんだけど!


ピコン!


キタキタ! マッチング成立! さてさて、私の相棒は…『ZERO』? ゼロ? なんだか強キャラ感漂う名前じゃない! いいね、いいね!


「よろしくー! えっ、と、ZEROさん、で合ってる?

アタシはScarlet! よろしくね!」


とりあえず、いつもの調子で威勢よく挨拶! すると、ZEROさんから、なんか覇気のない、ちょっとぶっきらぼうな返事が返ってきた。暗いヤツなのかな?


「…ん? なんか、その声…どっかで聞いたことあるような…?」


あれ? 不思議! 私もそう思った! ZEROさんの声、なんか今日の学校で聞いたような…? うーん、誰だっけ? ま、いっか! 今はゲームに集中、集中!


それより見て見て、私のHoly Knight! キラッキラでしょー! 後ろにはCatちゃんとSniperちゃんも控えてるんだから! …って、あれ? ZEROさんのキャラクターって…SRだけ? もしかして、ガチャ運に恵まれなかった残念な感じ? 大丈夫かな、この人。ま、アタシがキャリーしてあげればいっか!


「あ、対戦相手、決まったみたいだよ! えっとなになに…」


すぐに相手チームの情報が画面にデカデカと表示される。ふむふむ、NとかRとか、あとはSRのCatが二匹…? なんだか、こっちの方が圧倒的に強そうじゃん! よーし、私のHoly Knightで、敵をバッタバッタと薙ぎ倒して、パーフェクトゲーム見せつけちゃる!


「指示を出す。それに従ってくれれば勝てる」


お、ZEROさん、なんか上から目線だけど、頼もしいこと言っちゃってる! さすが「ZERO」を名乗るだけあって、自信満々なのね! いいよ、その調子!


「へ? あ、うん、わかった! 任せて!」


正直、細かい指示とかよくわかんないけど、とりあえず元気よく返事しておく。ノリと勢いが大事よね! よし、戦闘開始のゴングが鳴る前に、気合入れとこ!


私は迷わずHoly Knightを選択して、敵陣に向かって猪突猛進! 後ろからCatちゃんとSniperちゃんも、アタシに続けー! 全員で突っ込めば怖くない! 総攻撃だー!


「おい、Scarlet! Sniperを下げろ! なぜ前に出す!?」


え? ZEROさん、なんかすごい剣幕で怒鳴ってる? なんでよ? Sniperちゃんだって、近くで応援してた方がやる気出るっしょ! 遠くからチマチマ撃ってるなんて、性に合わないのよ!


「えー? だって、Holy Knightで全部倒す練習してきたもん! Sniperの操作? めんどいからZEROさんがやっといてよ!」


だって、Holy Knightをカッコよく操作するので手一杯なんだもん。Sniperちゃんまで見てる余裕なんてないっての! ZEROさん、そういう細かいのはよろしく頼むわ! 気が利く男はモテるって言うじゃない?


よーし、見えてきたぞ、敵のCatめ! 覚悟しろー! アタシの聖剣の錆にしてやるー! えいっ!


「うわっ! はやっ!」

ガキンッ! うわっ、相手のCat、ちょこまかと動きやがって! しかも爪の攻撃、地味に痛いんですけど! でも、こんなところで負けてられるかー! えい、やー! とりゃー!


なんとか敵のCatを撃破! ふぅ、思ったより手こずったわ。Holy KnightのHPも、結構減っちゃったじゃん。あれれ?


「Scarlet! すぐにHoly Knightを後退させろ! HPが危険だ!」


またZEROさんがギャーギャー言ってる。後退? なんでよ? まだまだピンピンしてるっつーの! 女は度胸よ!


「えー? なんで? このCat、結構強かったけど、だいたい動き覚えたし、いけるっしょ!」


さっきのCatの動き、大体インプットしたもん! 次はもっと華麗に、そして圧倒的に勝てるはず! アタシを信じなさいっての! 行くぞー! レッツゴー!


…あれ? 目の前に敵の大群! WarriorとRatと、さっきとは違うCatもいやがる!

やばっ、これってまさかの袋叩きコース!?


でも、なんだか、さっきより体が軽い! 敵の攻撃、スローモーションみたいに見える! こう避けて、こう斬って…えいっ!


敵のCatの突進を、紙一重でヒラリとかわして、強烈なカウンター! やった! Warriorの回転斬りも、華麗なバックステップで回避! そのまま、鬱陶しいRatを一刀両断! すごい、アタシ! 天才じゃん!


残りのCatとWarriorも、もうアタシの敵じゃないわ! 動きが全部お見通しよ! 攻撃をひらりひらりとかわして、隙を見つけてはズバッ! ズバッ! 快感!


やったー! 全員まとめてスクラップにしてやったわ! アタシ、ちょー強いじゃん! Holy Knight、マジで最強!


「やったー! 勝ったー! ねぇZEROさん、サポートありがとね! じゃ、私、宿題あるから落ちるね! またねー!」

( ま、ほとんどアタシ一人でやったようなもんだけど!)


そういえば、ZEROさん、何やっていたんだっけ?

ZEROさん、なんだか最初っからガミガミうるさかったけど、きっと私の神がかり的な強さを見て、言葉も出なかったに違いないわ! えへへ、惚れちゃってもいいのよ? なんてね! でも、もう時間切れ! 早くログアウトしないと、パパに怒られちゃう!


ARゴーグルを勢いよく外すと、途端に現実世界の喧騒に引き戻される。ふぅーっ、アドレナリン出まくったー! でも、感傷に浸ってる暇はない。目の前には、エベレスト級の宿題の山!


机に向かい、国語の教科書とノートを叩きつけるように開く。うげー、漢詩の暗唱とか、作者の心情を述べよとか、マジで意味不明! 筆圧MAX、魂を込めて、汚いけど勢いだけは誰にも負けない字で答えを書き殴っていく。こういうのは、質より量、そしてスピードが命なのよ!スピードとパワーで暗記すれば楽勝よ!


十数分ほど、脳みそをフル回転させて格闘したところで、スマホがけたたましく鳴った。画面には「ラスボス:四ノ宮魔王」の文字。うわ、出た。


「はいっ! 赤井温、ただいま任務遂行中であります!」

「ああ、赤井か。そのふざけた口調はどうにかならんのか。

まあいい、生徒会の件なんだが…」


電話の相手は、やっぱり生徒会長の四ノ宮先輩だった。声がもうすでに疲れてる。どうやら、来週開催される地獄の生徒会会議の日程と、私に押し付け…いや、任せたい仕事があるらしい。高1で入りたての私にマジで人使い荒くない? ま、期待されてるってことにしておくか! 先輩のありがたい(長い)お言葉をフンフンと聞き流し…いや、しっかり聞きながら、手帳に殴り書きでメモを取る。うん、ますます忙しくなりそうだぜ! やれやれだわ。


「じゃあ、そういうことで、遅刻するなよ」

「はいはい! 善処しまーす!」


四ノ宮先輩との憂鬱な電話を終えた直後、スマホの通知がピコンと光った。舞からだ。「ボーリングの件、忘れてないでしょうね?(怒)」だって。うわ、完全に記憶の彼方だったわ! やべー!


光の速さで舞に電話をかける。


「もしもーし、舞様! 温様でーす! ごめんごめん、ボーリングの件、アタシの脳内ハードディスクから完全にデリートされてたわ!」

「もう、温ったら、少しは落ち着きなさいよ! で、いつなら空いてるのよ?」

「えーっとね、明日の放課後とかどう? その後、駅前の新しいタピオカ屋にも突撃したいのよ!」


電話の向こうで、舞の呆れたような、でもちょっと楽しそうな声が聞こえる。やっぱり、友達とバカ騒ぎする計画を立てるのは、最高にエキサイティング!


ゲームして、宿題して、生徒会の雑用押し付けられて、友達と遊ぶ約束して…。なんだか、ジェットコースターみたいに時間が過ぎていく。でも、こういう常に何かに追われてる感じ、嫌いじゃない。むしろ、毎日が新しい冒険みたいで、ワクワクが止まらないんだよね!


まあ、細かいことはどうでもいいや! 明日もきっと、今日以上にエキサイティングで、波乱万丈な一日になるに違いない! それが赤井温ってもんよ!



私の嵐のように慌ただしくも、刺激に満ち溢れた一日は、こうしてあっという間に過ぎていくのだった。そして、その喧騒は、明日も、明後日も、きっと続いていくのだろう。


「明日はどんな冒険が待っているのかな? 楽しみ!」

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隣のクラスは最強タッグ 〜天才ゲーマーたちの恋愛頭脳戦〜 ゲンラーク @gennraku

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