第19話 雲に隠れた影
結城と桃はそれぞれの会社に休むと連絡をし、警察とは別行動で葵の行方を探ることにした。現場には監視カメラは無く、車を特定することは出来なかった。
警察の動きは遅めだったので、2人は居ても立ってもいられずに行動を開始した。しかし手掛かりが全くないことも事実である。ただ、結城には心当たりがあった。
(京極だ)
しかしそれを桃に伝える訳にはいかない。
「柏木さん、一度手分けしてそれぞれの心当たりを探りませんか? 何かあれば合流する形で」
桃は一瞬、戸惑ったように目を伏せたが、すぐに顔を上げて頷いた。
「分かりました、そうしましょう!」
桃と別れた後、結城はすぐに京極コーポレーションとそれに関連するグループを調べた。
会社にある京極付近の監視データにアクセスするが、怪しい形跡はない。おそらく今回の誘拐は京極自身によるものではないだろう。
結城はここ最近も自分を尾行していたグループ、「クラウン」について、調べをつけていた。もし京極が裏にいるなら、葵を攫ったのもおそらくクラウンの仕業だろう。
クラウンは裏社会でなんでも屋をやっている組織だったが、依頼人には忠実で人気も高かった。この組織は完全に縦社会で、下っ端には最悪バレてもいい業務、上層部の方になると失敗が許されない任務を任されるらしい。
葵を攫ったのが下っ端であるなら、手も粗い。仮に自分が狙いの場合、殺す前に何かしらの連絡をしてくるはずだ。
それが無いということは葵が殺されている可能性は低い。その可能性を信じて、結城はクラウンのデータを調べた。
「あった……!」
暫く検索を続けていると、あるサイトが目に入った。それは組織のよく使う廃墟ビルのデータだった。いくら裏社会専用のデータベースから検索したからといっても、ここまで詳しく載っていることは中々ない。
おそらくクラウンに恨みの強い人間が調べたのだろう。いつクラウンの本部にこのデータが消されるかは分からない。
結城はスクショを撮るとともに頭の中にデータを入れた。結城は以前シノと京極の分析をしていたときに、クラウンの話はしていた。
「クラウンは大きな組織だが、その作業の正確さで評価されている」
シノはホワイトボードで説明する。
「例えばここで、1つの殺人とその遺体の始末を任されたとしよう。耀、もし君が犯人ならどうする?」
「なるべくバレないところで殺して、さらに場所を変えて遠くに埋めるだろうな」
「そう、普通はその思考になるはずだ。しかし、クラウンはその逆を行う」
「え? なんでだ?」
結城にはその意味が理解できなかった。特に場所も指定されていないなら遠く、それこそ僻地の山奥などで殺した方が成功の可能性は高いからだ。
「考えてみたまえ。もし君の言う通り遠方で殺して、さらにその後移動させたとしようか。いったい何個証拠を残してしまうリスクがある?」
「あ……」
「慎重な犯罪者が恐れているのは距離じゃない。いかにバレないようにするかが大事だ。クラウンは特にその傾向があるんだよ」
シノはホワイトボードで、ターゲットの近くの家に点を描いた。
「だからもしクラウンがターゲットを殺すならここ。灯台下暗しってやつさ。もちろん証拠は一切残さない」
「いやでも、証拠を残さない能力があるならやっぱり遠くの方が良いんじゃないか?」
「移動時」
すぐにターゲットを攫ったことがバレないとも限らない。もし警察の検問などを敷かれたら、それこそ捕まるリスクは上がる。
「さっきも言ったが業界のクラウンに対する評価点はその正確さと、それに伴う組織を包むベールにある」
「つまり……」
「クラウンはあまり遠方に行かないということだね。君がもし攫われたときは覚えておいてくれ。もちろん僕も全力でそっちを捜索させてもらう」
「分かった。なるべく捕まらないように気を付けるよ」
「当たり前だろ」
「ここから近いところだと、30軒くらいか」
さすがに闇サイトなため警察や桃に言うことは出来ない。結城は1軒ずつ回ることにした。この時点ですでに夕方だった。しかし捜索には好都合である。
(寝ている暇はない)
結城は徹夜で探す覚悟を決め、タクシーに乗り込んだ。
「やれ」
夜中、静寂の中に銃声が鳴る。その弾丸は体を貫き、男はよろめいて倒れた。夜の静寂を引き裂いた一発。倒れた男が誰なのか、まだ誰も知らない。
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