13恐怖に支配されて

僕は何と声をかければいいのかわからなかった。言葉をかけるべきだとは思っていたけれど、どんな言葉が正しいのか、どう伝えたら彼女が少しでも楽になるのか、それがわからなかった。それに、少し怖かった。変なことを言って、彼女をさらに追い詰めてしまうんじゃないか、傷つけてしまうんじゃないか、それが怖かった。自分が今、どんな顔をしているのかもわからない。彼女自身のことも、正直今は少し怖く感じていた。あの怒りや混乱の中で、何かが壊れているような気がしていた。もし僕が何か間違えた言葉を口にしたら、また彼女が自分を傷つけるんじゃないかと、そう思うと手が震えそうだった。


そんな中、戦士が一歩前に出た。彼の姿勢が、どこか頼りに見えた。ナルディアの隣に立ち、静かに彼女の肩に手を置いた。彼の言葉や仕草が、まるで「君は何もできない」と言わんばかりに僕を無言で教えているようだった。彼は、恐怖に立ちすくむ僕の代わりに、彼女を支えるために一歩踏み出した。


「僕は何もできなかった。」


自分の恐怖に押しつぶされ、仲間に手を差し伸べることすらできなかった。その事実に、胸が締めつけられるようだった。

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