第28話

海底を蹴った俺の身体は、まるで矢のように水を突き抜けていった。

タイドロードへと進化した今の俺は、ただ泳ぐだけでも周囲の水流を味方にできる。

水圧も、水の抵抗も、すべてが俺の後押しになっていた。


上昇するにつれて、水圧はどんどん弱くなる。

それと同時に、海中の温度が少しずつ上がっていくのが肌でわかった。

暗闇も徐々に薄れ、遠くからかすかな光が届き始める。


(地上は近い……)


胸の奥が高鳴った。


この海の中で最弱だった俺が、ここまで来たんだ。

あのサハギン(幼生)だった頃、必死に小魚を追いかけていた自分を思い出す。

あのときの自分が、今の俺を見たら、きっと信じられないだろう。


だが、これは紛れもない現実だ。


成り上がった。

進化した。

力を手に入れた。


そして──次は、海を超える。


水面が見えてきた。

その向こうに、どんな世界が広がっているのかはわからない。

だが、それでいい。


未知こそが、俺を強くする。


俺は全身に力を込めた。


背中のヒレが海流を捉え、さらに推進力を高める。


水面まであと少し。

もうすぐ、手が届く。


(行くぞ──)


最後の一蹴りで、俺は水面を突き破った。


視界が一気に開ける。


眩しい光。

真っ青な空。

遥か遠くまで続く水平線。


そして、波間に点在する無数の島々。


俺はその光景に、ほんの一瞬だけ見惚れた。


だが、すぐに感知スキルを発動し、周囲を探った。


海の中とは違う。

空気の匂い。

陸地の気配。

そして、見たこともない異形のモンスターたちの気配が、海上に満ちていた。


(あれが──地上の世界か)


興奮で、心臓が高鳴る。


だが、同時に理解する。


ここでも、俺は最初から最強じゃない。

また、一から積み上げる必要がある。


だが、それがどうした。


この海で成り上がったように、陸でも、空でも、俺は勝ち抜いてみせる。


俺は水面を滑るように移動し、最も近い島を目指した。


島に近づくにつれて、巨大な影が海中から浮かび上がってくるのが見えた。


【リーフガーディアン】

【レベル:22】

【特徴:島の守護者、高防御、高攻撃】


(いきなり歓迎かよ……)


だが、笑みがこぼれる。


これくらいの試練がなきゃ、つまらない。


新たなスキル【水流支配】を使い、周囲の海流を操る。

リーフガーディアンの動きを封じ、一気に距離を詰めた。


奴は巨大な腕を振りかぶり、こちらを叩き潰そうとする。


だが、読める。


感知スキルが、すべての動きを手に取るように伝えてくる。


俺は一瞬で回避し、懐に飛び込んだ。


牙を剥き出しにして、目の前の敵に飛びかかる。

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