第27話

新たに表示された進化先のリストを、俺はじっと見つめた。

タイドロード、アビスラプトル、クラーケンキング。

どれも、進化すれば確実に今よりも遥かに強力な存在になれるだろう。

だが、迷いはなかった。


【タイドロード】

──水流支配能力特化。海流そのものを操り、周囲を制圧可能。


【アビスラプトル】

──瞬間火力特化。奇襲と一撃必殺を極めるハンタータイプ。


【クラーケンキング】

──耐久と制圧力特化。海底の覇者と称される存在。


それぞれに長所と短所があるのはわかる。

だが、俺が目指すのは、海そのものを掌握する王だ。


だから──選ぶべきは決まっている。


(タイドロード……これしかねぇ)


俺は意識を集中し、進化先に選択を刻み込んだ。


【進化開始】


ウィンドウが消えると同時に、全身に猛烈な熱が走った。

骨が軋み、筋肉が引き裂かれ、皮膚が破れ、再構成されていく。

進化のたびに味わうこの感覚にも、少しは慣れてきたはずだった。

だが、今回のそれは、過去最大級だった。


俺は歯を食いしばり、身をよじった。

絶叫する代わりに、内側から膨れ上がる力に意識を集中させる。


(これが……タイドロード……)


全身を包む海流すら、俺の意志に応じて変化していく。

水の抵抗がほぼゼロになる。

まるで自分が海そのものになったかのような感覚。


進化が完了する頃には、俺の身体は大きく変わっていた。


鋭く伸びた爪。

しなやかでありながら鋼のような筋肉。

背には巨大なヒレが伸び、周囲の海流を自在に操るための器官が形成されていた。


ステータスウィンドウが開く。


【種族:タイドロード】

【レベル:20】

【HP:95/95】

【MP:15/15】

【筋力:50】

【敏捷:60】

【知力:12】

【耐久:36】

【スキル:水中遊泳(上級)、噛みつき(中級)、水圧噴射(中級)、感知(上級)、硬鱗化(中級)、甲羅強化(中級)、高速遊泳(上級)、捕食本能(中級)、渦潮掌握(中級)、血潮の加護(中級)、雷撃耐性(中級)、深海適応(初級)、水流支配(初級)】


進化に伴い、多くのスキルが強化され、さらに新スキル【水流支配】が追加されていた。


【水流支配(初級):広範囲にわたり水流を自由自在に操作し、敵味方の移動を制御可能】


(これだ……)


この力こそ、海を制するために必要だった。


ただ生き延びるために戦っていた最弱の頃とは違う。

今の俺は、環境すら意のままに操れる存在になった。


(この海は、もう俺の領域だ──)


新たな力を試すべく、俺は海底を蹴った。

水流が俺の意志に従い、海中に巨大な渦を作り出す。


強制的に敵を引き寄せ、動きを封じ、叩き潰す。

理想的な狩場を、俺自身の力で作り出せる。


心が震えた。


ここまで来た。

けれど、まだ満足なんかしていない。


次は──この海を越え、さらなる世界へ。


新たな目標が、自然と心に浮かんでいた。


(地上だ……)


この世界に海だけじゃない。

陸があり、空がある。


ならば、そこをも手に入れる。


今の俺なら、できる。


いや、必ずやってみせる。


俺は牙を剥き、深海を蹴って上昇を開始した。

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