第20話

水流を割って突撃した俺の身体は、まるで弾丸だった。

全力で振り絞った速度に、砂と水が悲鳴を上げる。

正面から迫るサンドデビルシャークの巨体が、目前に迫った。


狙いは頭部、もしくは目。

どちらも無理なら、せめて口の中だ。

そこだけは、分厚い皮膚に覆われていない弱点だと、感知スキルで読み取れていた。


俺は水圧噴射を横に撒きながら、ギリギリまで加速し、牙を剥き出した。


サンドデビルシャークが大口を開けた。


今しかない。


俺は右側へ身をひねりながら、顎の付け根に思いきり噛みついた。


ガリッ、と硬い骨に当たる感触。

だが、牙は食い込んだ。


シャークが凄まじい勢いで暴れ出す。


尾びれが水中をかき乱し、砂が巻き上がる。


まともに喰らえば、一撃で砕かれるだろう。

だが、俺は離さない。


硬鱗化を最大限に発動し、身体を守りながら、牙をさらに深く突き立てた。


「ぎぎぎぎぎゃああああっ!」


シャークの叫びが海中に轟く。


獰猛な怪物が、必死にもがいている。

だが、もう遅い。


捕食本能が発動し、ダメージを与えるたびに俺の体力が微回復していく。

こちらの消耗は最小限だ。


俺はさらに顎を押し広げ、裂傷を広げた。


ズバッと肉が裂け、血が噴き出す。


視界が赤く染まった。


それでも俺は牙を離さなかった。


この一撃で仕留める。

絶対に。


シャークがさらに暴れ、俺の体に爪がかすめる。


硬鱗化で防ぎきれなかった一撃が、背中に食い込んだ。


鋭い痛みが走る。


だが、そんなもの──どうでもいい。


この瞬間に、すべてを懸けると決めた。


俺は牙に全身全霊を込めた。


グシャッ。


嫌な音と共に、顎の骨が砕けた。


シャークの動きが、一瞬で止まった。


感知スキルが告げる。


──敵意、消失。


勝った。

俺は勝った。


全身が震えた。

興奮と、歓喜と、戦い抜いた充足感に包まれる。


【経験値を大量に獲得しました】

【レベルが13に上昇しました】

【新スキル:血潮の加護(初級)を習得しました】


(……血潮の加護?)


新たなスキルに胸が高鳴った。


すぐに確認する。


【血潮の加護(初級):敵に与えた流血量に応じて、自身の攻撃力と移動速度を短時間上昇させる】


(やべえ……これ、完全に俺向きのスキルだ)


戦えば戦うほど、流血させればさせるほど、俺は強くなる。


最高だった。

これ以上ない成長だと断言できる。


俺はサンドデビルシャークの肉にかぶりついた。


凶悪な肉だ。

生臭さも苦味もすさまじい。

だが、そんなこと関係ない。


これもまた、俺の力になる。


【経験値を獲得しました】

【筋力が上昇しました】

【敏捷が上昇しました】

【耐久が上昇しました】


一口食うたびに、ウィンドウが鳴る。


こんなにも実感を伴う成長は、もはや快感だった。


食い終わったころには、俺のステータスはさらに跳ね上がっていた。


【レベル:13】

【HP:45/45】

【MP:7/7】

【筋力:22】

【敏捷:26】

【知力:6】

【耐久:16】


(まだいける……この先も、俺は、もっと──)


深く息を吸い込んだ。


この広い海は、まだまだ俺に未知の強敵と、未知の成長を用意しているはずだ。


俺は──この海を、必ず手に入れる。

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