第11話 未来を変えろ

 ハローワークから帰る途中の純一はメールの着信音に気づき足を止めた。

 

 送信者の名前にめぐみの名前を確認してため息をつく。

 

 おそらくは就職活動の結果を尋ねてきているのだろう。

 あの後、A社以外の求人も探してみたが、条件のいい仕事というものはそうそう見つかるものではない。この調子ではまたフリーターを続けていくほか仕方がなさそうだ。


 あと一月もしないうちに現在の時間でめぐみと出会うことになる。めぐみが予言したとおり、純一の勤めていたレンタルビデオ店はおしゃれな外観の洋菓子店に姿を変えた。まだオープンにはいたっていないものの、二人が出会う八月八日までに開店するのは間違いないだろう。

 

 純一はそこでめぐみに出会い、声をかける。


 「そのとき、ぼくは嘘の職業を教えることになるんだな」

 

 なぜ、ぼくはそんなバカな嘘をつくんだろう。その場でいいカッコをしたって、一月もすればしがないフリーターだって事はすぐにばれてしまうのに。

 

 未来の自分は、自分なりに考えることがあるのだろうが、下手に未来を垣間見ているだけに不安が膨らむ。

 

 ひとまずは今、めぐみからのメールになんて返事をするべきか、ということだ。出会ったときのためにA社に受かったと嘘を言うか、三ヵ月後の彼女には正直に伝えるべきか。純一は頭を悩ませながら携帯を開いた。

 

「なんだって!」

 

 メールの内容を開いた純一は思わず大声を上げてしまう。途切れたメールの状況から、かなりぎりぎりの状況で連絡してきたと想像できた。

 

 今こうしている間にもめぐみは命の危険にさらされているのだ。しかし、今の純一にはどうすることもできない。事件は未来で起こっているのだ。

 

 そう考えて純一ははたと気がついた。

 そうだ、事件が起こるまでにはまだ三ヶ月の時間があるのだ。まだ打つ手はある。

 

 彼女が襲われるまでにその場所を突き止めて助けにはいればいい。それよりももっと早いのは自分の偽者をすぐにでも警察に突き出せばいいのだ。

 しかし、それにはまだ大きな問題が残っていた。


 「彼女の危険を知りながら、三ヵ月後の本当のぼくはなぜ彼女を助けに行かないんだ」

 

 なぜ行かないのか。いや違う。行けないのだ。

 

 なぜ、銀行強盗が純一の携帯電話を持っていて自分に成りすまして生活できているのか、それは純一もその男に襲われたからだ。

 そのとき携帯や身分証明書などを奪っていくのだろう。そしてその時自分は……

 

 その考えに純一の体を悪寒が走った。


 「まさか、ぼくは殺されるのか」

 

 いや、まだだ。未来を知っている分、銀行強盗の男よりは自分の方が有利だ。

 めぐみが銀行強盗を目撃するのは今から二週間後のはずだ。それまでにめぐみを見つけて銀行に行くのを止められれば、未来は変わる。いや、変えてみせる。

 

 

 純一はすぐにめぐみを探し始めた。

 時間はたっぷりある。あのレンタル店を利用していたことを考えると、駅近くで働いている可能性が高い。


 純一は元のレンタル店を中心に仙台の町を毎日歩き回った。似た顔を見つけては声をかけ続けたが、全てが人違いだった。東京に比べればたいしたことはないのだろうが、それでも東北一番の都市の駅前だ。人の数は並みではない。それでも純一はあきらめずめぐみを探し続けた。

 

 純一が街をさまよう間にもレンタル店は日々、洋菓子店へとその姿を変えていく。

 もしかしたら無事に逃げ出すことができているかもしれないと思い、何度かメールも送ったがあれ以来、三ヶ月後の彼女から返事が来ることはなかった。


 純一の努力をあざ笑うかのように、めぐみの姿を見つけられないまま時間はすぎていく。

 






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