執行猶予
学生作家志望
モラトリアム
僕らには執行猶予がある。またの名をモラトリアムと言うのだけど、僕らの体には見えないそれがまとわりついているのである。先生がおっしゃった。
「君たちの税金も、スマホの通信代も、結局払ってくれているのはみなさんの両親です。」当たり前と言えば当たり前のことなのだが、それは果たしてなぜ当たり前なのか。そう問われたときに、僕らはみんな黙ってしまった。
答えはモラトリアム。執行猶予である。社会で生きる上で必ず課される責任や義務、僕らにはその一部がない。住民税も所得税も僕らは払わないのに、廊下に落ちていたりする教科書には、税金がかかっていて無償なのだ。
言ってしまえば、僕らは常に税金を抱きしめて歩いているようなもの。考えてみれば、それってとんでもないことだ。
それに、税金だけではない。少年法というものでも僕らは守られている。暴力事件、万引きの何やら何まで、親を呼びましょう。保護者を呼びましょうと、身近な大人が必ず責任を問われるシステム。
これが未成年。モラトリアムであり執行猶予だ。学校に行って、正しい勉強をして、社会に出る準備をしているから、これらの全てが特別に許されるのである。たまに、少年法などに守られているということを楽観視するようなやつもいるが、もちろん何をやってもいいというわけでは全くない。
むしろ僕らは、そんなことに時間を割いている暇などないのだ。中途半端に調子に乗って、軽く犯罪をしたりして、ルールやマナーを破り他人に迷惑をかける。こんな、しょうもないことが、なぜできるというのか。
若気の至り、なんて甘ったるい甘えの言葉で片づけてはならないだろう。大人になれば、それは立派な犯罪で、社会的な抹殺対象になり得るのだから。
顔を下げたままの僕らに、先生がまたおっしゃった。
「だから、今は好きなことをする。好きなことを考えて、それを大人になった時にどう活かすかを考える。人生の設計図を考えてもいい。とにかく、ぼーっとしたりゲームだけをするのはやめて欲しい。」
僕らは、自分の体や精神を守ってもらっているだけではなく、無限に夢を組み立てることの出来る自由の時間も、やはり守ってもらっているというのが、先生のお話だった。
そうだ、そうか。
大人になることが怖くなってきた。僕らはいつか、自由も制限されてしまうということなのかな。だとしたら今日の様に、夢を語るのももうできないのだろうか。
執行猶予が終わるまで、あと何年。。僕らは心の中で、残り少ない執行までの時間を数えていた。
執行猶予 学生作家志望 @kokoa555
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