12章 仲間割れ
話し合いは続いている。
突然メラが立ち上がって
「私は壁に火を放ったほうがいいと思う」
と言った。
「冗談で言ってんのか?壁の火が街に燃えたらどうなるか分かってるのか?」
「それよりも、王国の支配の象徴である壁を燃やせば、国の変革期だと国民にもわかってもらえる。国民は協力して、国王の支配体制を崩し、国民は、自由に生きていけるのだ」
確かに、壁を崩さなければ、外に出れないと感じて自由を手に入れられないと思う国民も多いかもしれない。
「じゃあ、やっぱり壁に火を放とうか」
「本気で言ってんのか?お前らにはあきれたぜ。俺はりんご自由同盟を抜ける」
「えっ」
みんな口々に言った。カルが抜ける!?絶対だめだ。
「ちょっと考え直してよ。カルがいなかったら」
僕の言葉を遮ってメラが言った。
「ああ、抜ければいいよ。カルが抜けても誰も困らぬ」
えっ。メラ、それは言い過ぎじゃ?
「ちょっとメラ、何言ってんの?それはおかしいでしょ。カルもさっきはごめん。もう1回考え直すから」
「いや、考え直す必要などないぞ。壁に火を放つのが正しいからな」
レッパが言った。
「そうじゃ。カルはおかしいぞ」
メラまでそんな事を。
「ねえ、ちょっとみんな落ち着こう。落ち着いて」
僕はできるだけ大きく、ゆっくり、ハキハキと、優しく言った。
「壁に火を付けたらさ、壁の周りの家がさ、燃えたら、そこに住んでる人はさ、家が無くなってさ大変じゃん。だからさ、やっぱ壁には火を付けなくていいじゃん」
「いや、だめだ。私は占いが出来る。壁に火を放たなければこの計画は失敗する。絶対に。だから、やらなければならない」
「そんなウソ良いんだよ。どうせ壁を燃やしたいだけだろ?もういいよ。俺はりんご自由同盟を抜ける」
カルは歩き出した。
「待って」
「止めるな。もういいよ。俺はゲンさんを頼って旅をする。いろんなところに行く。こんな事しなきゃ良かったぜ。さよならだな」
「ちょっと、こんなのないよ。絶対だめだって」
僕は必死で叫んだが彼は振り返らずに歩き続けた。こんなの、こんなのないよ。僕は悲しくなった。沈黙は五分ほど続いた。
僕らは気づかなかったが国王はとっくに壁の門を通り越していた。
「火を、放つね」
レッパが言った。みんなうなずき、レッパは壁の火薬に火を放った。
火は瞬く間に壁を覆っていった。僕らは急いで壁の門の中に入った。
ずっと、見入っていた。
僕らはコープ先生の家に向かった。何も言わずに。カルも来てほしかったな。
コープ先生は後ろに誰かを背負ってやってきた。インベル国王だ。気絶しているらしい。
「あれ、カルは?」
一瞬空気が凍った。
「カルは・・・」
メラはカルとのいさかいをすべて話した。
「なるほどね〜。まあほっといて良いんじゃない」
えっ。コープ先生にしては意外な反応だ。
「カルは外で意外と楽しんでるかもよ。もし困ったらこの国に戻ってくるだろうし。家出もいい経験でしょ」
コープ先生
ここからは、その後を話す。
りんご自由同盟はインベル国王に対して辞任を要求した。僕は、あの日、つまり12月15日から2日後に王城に行った。王城は見事に焼け跡に化していた。王城の趣は消え失せていた。僕は、王城の跡にりんご自由同盟の旗を立てた。同盟軍の勝利の象徴だ。
火は、翌日に雨が降って消えた。
トランのお父さんを隊長とする王国兵士軍は、その日、降伏した。僕らは勝利宣言を出した。
12月20日、国王は、譲位宣言を出した。つまり、国王を譲るということだ。次の国王はメラらしい。実施は12月24日クリスマスだ。
12月24日にインベル国王は退位した。退位演説で
「われは、国民に不利益なことをしていた。知っていないと思うが外に竜はいない」
群衆はざわめいた。
「われはウソをついたのだ。われの一族はりんご王国の国民を支配するために外に竜がいると言えば国民は外に出ない。そうやって一族でこの国を支配したのだ。われは、悪い事をしたと思っている。反省する。反省のあらわしとして、われ、いや私は、本日、国王を辞任して、王家を脱退し、国を退去する。明日、メラ王女が即位する。皆のもの、盛大に祝ってくれ」
翌日、メラ国王が即位した。
メラは就任演説で
「われは、国民に、自由で、平和な、りんご王国を、享受する。前インベル国王は、国民をだまして、支配したが、われは、国民と協力して、支配する。壁は崩れた。竜はいない。これから皆のものは自由だ。自由とは、自分で決めていいということだ。今から、新しい時代が始まる。これからは、国はそなたたちを管理はしない。自由のために補助をする。働くのだ。自分のために。遊ぶのだ。自分のために。これからは何でも自分のためにしてよい。その権利を享受する。これが、われの、就任宣言だ」
と言った。
りんご王国物語 はつトラ @hatsutora
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