第七話 第一歩

 グランヴェル領での仕事が終わり、王都に移ることになった。

 現時点での計画は、まず街灯を王都全体に建設して、明かりを確保する。そして、各住宅に太陽光発電システムを導入し、最終的に水力発電所を建設する。風力発電所の建設はまだ協議が続いているらしく、結論が出ていない。

 また、アルカディア山脈のふもとに水力発電所を建設することになっているけど、そこから電線を引かないといけない。ここで、ロイ様が集めた労働者に仕事をしてもらう。アルカディア山脈の麓から王都まで地面を堀り、電線を埋めていく。それが完了したら変電所を設け、各家庭に電力を供給する。

 まあ、私もアルカディア山脈に行かないといけないから結構大変だ。気を引き締めていこう。


 「シルヴィア様、手を」

 「はい」


 これから馬車に乗って王都まで移動する。ベネディクト国王陛下も首を長くして待たれていることだろう。王都に着いたら街灯を建設して王都を明るく照らし、作業効率も上げる。ヴァリアント王国が近代都市になるのは、そう遠くない話だ。


 「シルヴィア様、緊張されていますか?」

 「はい、少し」

 「お部屋はご用意してありますので、何かありましたらメイドにお申し付けください。食べたい物や飲みたい物、何でもご用意します」

 「分かりました。その際は申し付けます」


 ロイ様が緊張されている。初仕事が成功するか不安なのだろう。でも、大丈夫。事前に仕事の段取りを伝えてあるから、その通りにすれば問題ない。あとは妨害されないか、だ。

 

 「ロイ様、クリフォード様は今何をされていますか?」

 「兄上ですか? 今は、剣を極めるために稽古をしていると聞いています」

 「そうですか。良かった」

 

 クリフォード様や商人が邪魔をしなければ問題ない。もし邪魔をするようなら、ベネディクト国王陛下から直々に発行していただいた許可証を見せつけよう。


 「シルヴィア様、兄上のことが気になりますか?」

 「ええ、少し」

 「もしかして、妨害されると思っていますか?」

 

 図星を突かれ、ビクッとなった。

 そう、私の脅威はクリフォード様。ベネディクト国王陛下から邪魔をしないように言われているけど、いつ反旗をひるがえすか分からない。もしかして、学者たちに電化製品の研究をさせているのもクリフォード様では?


 「はい。何かしら妨害をしてくると考えています」

 「父上が目を光らせているので大丈夫ですよ」

 

 ベネディクト国王陛下直々の命令で動くんだ。邪魔するはずないよね。


 「シルヴィア様、少しお休みください」

 「分かりました。では、少し休ませていただきます」


 少し休めば不安もなくなるだろう。よし、仮眠をとろう。


 「失礼します」

 

 ロイ様が見守る中、私は仮眠をとった。




                *




 目覚めた時、ヴァリアント城の正門前にいた。私はゆっくりと体を起こし、ロイ様と馬車を降りた。


 「シルヴィア様、まずお部屋に案内します」


 私の為に準備した部屋、一体どんな部屋だろう。できれば、ロイ様のお部屋から近い方が良いな。


 「こちらになります」

 

 扉を開けて部屋の中に入ってみた。結構広い。そして、高そうな家具が置かれている。


 「シルヴィア様、仕事の方はもうされますか?」

 「はい、街灯だけ設置しようと思います」

 「分かりました。では、城下町の方に行きましょう」

 

 馬車の中でゆっくりできたお陰で体力が回復した。城下町の大通りだけでも街灯を設置しよう。


 「ロイ様、城下町の地図はありますか?」

 「ありますよ。ちょっと取ってきます」


 ロイ様が離れた。仕方がない。ここで待っておこう。


 「おや? そこにいるのはシルヴィアじゃないか」

 

 狙っていたかのようにクリフォード様が現れた。何でこんな時に。


 「何でしょうか?」

 「シルヴィア、ロイは何処に行った? もしかして、待ち合わせか?」

 「違います。必要なものを取りに行ってもらっただけです」

 

 クリフォード様が私の周りを回って目の前に立った。

 一体何の用で私に話し掛けたんだろう。単なる嫌がらせならやめてほしい。


 「シルヴィア、婚約破棄されて心が傷付いたのは嘘なんだろう? 本当は辺境の地で自由気ままに生活したいだけだろ?」

 「……ご想像にお任せします」

 「もうひとつ聞く。お前は俺のことを恐れている。何故なんだ?」

 「貴方が第一王子で、少なからず実権を握っているからです」

 「分かっているじゃないか。なら、どうすればいいのか分かっているよな?」


 クリフォード様の言いなりになれってこと? 

 そんなの嫌だ。


 「分かりません。ですが、ひとつだけ言わせてください」

 「何だ?」

 「私は、ベネディクト国王陛下から直々に命令されて動いています。それを妨害するような真似はやめてください」

 「俺がいつ妨害をした? 何も分かっていないのに勝手に決めつけるな」


 王都の学者に電化製品の研究をさせていない?

 ということは、学者が勝手にしているの?


 「貴方は何がしたいのですか? いい加減にしてください!」


 クリフォード様が突然、私を壁際まで追いやった。そして、勢いよく壁に手を当て、壁ドンしてきた。


 「いい加減にするのはお前だ。いいか、よく聞け。俺はお前が好きなんだ。ロイなんかやめて俺にしろ」

 

 今更何を言っているんだ、この人は。でも、目が本気だ。


 「それは……、できません」

 「何故だ? 自分の言う事を何でも聞く、ロイの方が良いと言うのか?」

 「違います。ロイ様は私に真摯に向き合ってくれるのです。裏切るような真似はできません」


 ロイ様が戻ってきた。早く来て!


 「今日のところはこれで許してやる。今度会ったら逃がさないからな」

 

 クリフォード様がこの場から立ち去った。ロイ様が慌てている。


 「シルヴィア様、大丈夫ですか!?」

 「ええ、なんとか」


 ロイ様の手には城下町の地図がある。これさえあれば街灯を一度に設置できる。


 「まったく、僕が目を離した隙を狙って……」

 「本当に大丈夫です。それより、城下町に急ぎましょう」

 

 ヴァリアント城の正門前に急ぐ。できれば、暗くなる前に終わらせたい。


 「シルヴィア様、今日中に街灯を全て設置するのですか?」

 「いえ、可能な限りです」

 「無理はなさらないでくださいね」


 いつも優しい言葉を掛けてくれる。それだけで幸せなのにクリフォード様のことが頭から離れない。やはり、クリフォード様は……。


 「シルヴィア様、大通りだけ街灯を設置しましょう」

 「分かりました。では――」

 

 ヴァリアント城の正門に辿り着いた。その前には城下町の大通りがある。


 「街灯よ。地図の印に従い、具現化せよ!」


 街灯が二軒置きに設置されていく。それに驚いた国民が街灯を見つめ、指を差している。


 「何だ、これは?」

 「あっ、あの方は……」


 うっ、だいぶ体力を使ってしまった。けど、倒れるほどではない。

 これで大通りに街灯を設置することができた。あとは王都にある住宅に太陽光発電システムを設置していくだけだ。それは明日にしよう。


 「シルヴィア様、大丈夫ですか?」

 「ちょっと疲れましたが、大丈夫です」


 ちょうど空が暗くなった。それから少しして、街灯の明かりが灯った。


 「お~、明るい。これで夜中も安心して歩けるな」

 「シルヴィア様に感謝しないとな」

 「全くその通りだぜ」


 ロイ様が事前に知らせていたので、少し驚く程度で済んだ。あとは明日するとして、これからどうしよう。

 あっ、ヴァリアント城に太陽光発電システムを設置していない。


 「ロイ様、ヴァリアント城はどうしましょう?」

 「そうでした。シルヴィア様、太陽光発電システムの設置お願いできますか?」

 「分かりました。では――」


 事前に用意したヴァリアント城の太陽光発電システムの設置図を使い、ヴァリアント城に太陽光発電システムを設置した。もちろん、城内のコンセントや照明も具現化させている。これで第一歩踏み出したことになる。


 「うっ……」

 「シルヴィア様!」


 体力を使い過ぎてフラフラする。早く横になりたい。


 「シルヴィア様、背中に乗ってください。お部屋まで運びます」

 「すみません」

 

 ヴァリアント城内が明るくなった。これで夜中でも歩ける。


 「すみません。僕が余計なことを言わなければ……」

 「良いですよ。仕事なので仕方がありません」


 ロイ様の温もりが伝わってくる。なんか心地良いな。


 「ロイ様……」


 私は力尽きるように眠ってしまった。

 

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