第六話 セバスの言及

 ベネディクト国王陛下が王都に帰られてから急ピッチで太陽光発電システムの普及を進めた。


 「水力発電所からの電力も安定しています。恐らく、もう大丈夫でしょう」

 「お疲れ様です。シルヴィア様」


 水力発電所の他に変電所も設けた。これでグランヴェル領は近代化したと言える。あとは電化製品の普及。これは、私なしでは成し遂げられない。


 「電化製品の普及はどうされますか?」

 「ある程度は各家庭に普及していますので、急がなくてもいいと思います」

 

 生活必需品はある程度販売した。でも、領民からまだ欲しいものがあると言われている。王都の近代化を進めなければならないのに、グランヴェル領ばかり力を入れられない。どうしたものか。


 「でも、販売してほしいと名乗りを上げている者がたくさんいます」

 「では、欲しいものをリストに上げてもらいましょう。それで対応します」

 「かしこまりました」

 

 ロイ様が助手になってから仕事が順調に進んでいる。無理だけはしないでほしいけど、ロイ様はやる気だ。王都を近代化し、ヴァリアント王国そのものを近代都市にしようと考えている。私もやると決めたんだ。ロイ様と仕事を進めていこう。


 「今足りないのは、洗濯機とお風呂の湯沸かし器か。調理家電はある程度販売したから問題なしね」


 電化製品の販売でグランヴェル家の収益が急増した。つまり、お金持ちになったということだ。でも、電化製品を求める声はなくならない。作りたいのは山々なのだけど、ひとつひとつ手作りなため時間が掛かる。何とか効率を上げたいな。

 

 「シルヴィア様、紅茶をお持ちしました」

 「ありがとう。セバス」


 グランヴェル邸に来てから二週間が経った。領民からの要望を解決しないと王都にいけない。それが終わって王都に行くことになったら、真っ先にヴァリアント城を近代化させよう。太陽光発電システムを導入して、水力発電所と変電所を設ける。そして、最後に風力発電所を設ければ完璧だ。

 まあ、電化製品は追々販売するとして、街灯はどうしよう。町全体に設けるとなると結構体力を使う。私、大丈夫かな?


 「シルヴィア様、あまり無理をなさらないでください」

 「分かっているわ。セバス」

 

 セバスが心配している。力を頻繁に使っているから、また倒れるのではと思っているみたい。私自身、それを心配している。でも、仕事量を制限すると、ベネディクト国王陛下との約束が果たせなくなる。ここは我慢時だ。


 「セバス、紅茶を飲んだら少し休むわ」

 「かしこまりました。シルヴィア様」


 私は紅茶を軽く飲み、安らかなひとときを過ごした。




                  *




 ――一週間後。

 グランヴェル領に住む領民からのリクエストを全て叶えることができた。

 

 「やっと終わりましたね。ロイ様」

 「そうですね」


 王都に滞在するには部屋を借りないといけない。一応、ロイ様のお部屋にお邪魔することになっているけど、少し心配している。

 男性の部屋に女性が入り浸って大丈夫かな?


 「王都にはいつ頃向かわれますか?」

 「シルヴィア様の体調が回復されてからにしましょう」

 

 私の体調次第か。ちょっと疲れている。


 「では、明後日向かいましょう」

 「分かりました。では、僕はこれで」


 ロイ様が客室に戻った。スレナは……、部屋の隅に立って私を見つめている。


 「スレナも休んでいいわよ」

 「では、私も休ませていただきます。何かありましたら、お呼びください」

 「分かったわ」


 スレナが退室した。その時、セバスが入れ替わりで入ってきた。


 「シルヴィア様、少しお話がございます」

 「何?」


 改まってどうしたんだろう。何かあったのかな?


 「シルヴィア様が多大な功績を上げているのは、そのお力があってのことなのは分かっております。ですが、悲しいことにシルヴィア様に敵意を向ける輩がいるのです」

 「私に敵意を? 誰が?」

 「それは、王都の商人たちです。電化製品の独占販売を良しとしない連中が、シルヴィア様がお作りになったものをバラバラにして壊している。なんて嘆かわしいことでしょう」

 

 なるほど、私が作った電化製品をバラして研究しようとしているのか。でも、それは不可能。だって、この世界にないものを使っているのだから。

 

 「セバス。王都の商人たちは、私が作ったものを分解・研究しているのかしら?」

 「そう聞き及んでおります。ですが、作ることができないようです」

 「それはそうよ。だって、この世にないものを使っているのだから」


 私はうっすら笑った。

 この世にないもので構成されている電化製品をバラしても何の意味もない。王都の商人たちは馬鹿だ。そんなことをしたら、ヴァリアント王国すべての国民を敵に回すことになる。独占販売が気に食わない? 王都の商人は何を考えているのかしら。


 「この世にない物……、本当ですか?」

 「本当よ。もし作れたら、その人は天才だわ」


 私以上の天才がこの世にいるとは思えない。もし作れたら、偉人として称えられるだろう。私だったらそうする。


 「では、放っておいてもいいと?」

 「放っておくことはできないわ。だって、せっかく作ったものを壊されたら、使いたい人が使えないでしょ?」

 「それもそうですね。では、ロイ様にそのことをお伝えします」

 「私からも言っておくわ。その方が良いでしょう?」

 「はい、よろしくお願い致します」


 私が作ったものを分解して研究しているのは学者だろうな。でも、部品の原材料が分かっていないから作ることができない。少し可哀想な気もするけど、私の専売特許だと思って諦めてほしい。


 「セバス、少し休むわ」

 「分かりました。お邪魔して申し訳ありません」


 セバスが退室した。

 さて、一休みしてから王都に向かう準備をしよう。


 「ふぅ…………」


 ベッドに横たわり、ゆっくり目を閉じる。

 王都が近代化したら次は何をしよう。自動車でも作ってみようかな。なんか楽しくなってきた。


 「おやすみなさい」


 そう呟き、眠りに就いた。

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