第八話 大いなる進展
――約二ヶ月の歳月をかけ、王都に太陽光発電システムを普及させた。それに伴い、家電製品の販売も開始。王都は瞬く間に近代都市と化した。
「シルヴィア様、やっと一息付けますね」
「そうですね」
ひと仕事を終え、現在はロイ様の部屋で休息を取っている。実はこのあと、水力発電所の建設をすることになっているのだが、山賊が出るかもしれないということで、急遽護衛としてスレナ率いる白薔薇騎士団が出動することになった。
「スレナ、護衛お願いね」
「おまかせください。白薔薇騎士団の名に懸けて必ず守ってみせます」
スレナもやる気だ。白薔薇騎士団ならきっと守り抜いてくれるだろう。
「シルヴィア様と僕は馬車で移動します。スレナさんは馬車を守ってください」
「承知しました」
よし、休憩は終わり。正門前に急ごう。
「ロイ様、行きましょう」
「はい!」
ロイ様の部屋からヴァリアント城の正門前に移動する。
集まった労働者の仕事は、私が水力発電所を建設してから始まる。その際、変電所も建設する予定だ。
太陽光発電所の建設も考えているけど、水力発電所を建設してから考えようと思っている。常時、電力を確保できれば風力発電所はいらないかもしれない。それらはよく考えて行動に移そう。
「シルヴィア様、馬車へ」
「はい」
ロイ様の馬車に乗り込んだ。
私専用の馬車より少し豪華だな。装飾が結構凝っている。
「スレナさん、出発します」
「分かりました」
ヴァリアント城の正門から遠ざかっていく。アルカディア山脈まで一時間は掛かると聞いている。
どうか、山賊が出ませんように。
「シルヴィア様、電線を埋める作業は何時頃から始めますか?」
「水力発電所と変電所を建設してからです。電線を埋める作業はどれくらい掛かると思いますか?」
「アルカディア山脈から王都までなので、二ヶ月から三ヶ月は掛かるでしょう」
「給与はちゃんと払えるのですよね?」
「もちろんです。その点は心配なさらないでください」
ロイ様の監督の元、電線を埋める作業を行う。それが終わったら、王都の近代化は一旦終わりということになる。
ベネディクト国王陛下からは、『太陽光発電システムを導入したお陰で町が明るくなった。それに生活水準が向上し、国民の暮らしが豊かになった』とお知らせが来た。
特に気に入っているのは街灯と照明らしい。あと、以前差し上げた自転車も重宝しているとのこと。喜んでもらえて何よりだ。
「ロイ様、少し休んでもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。宜しければ、肩をお貸ししましょうか?」
「お願いします」
ロイ様の肩に寄り掛かってゆっくりと目を閉じた。
大規模な建設をするんだ。休んでおかないと倒れてしまう。
「では、到着したら起こしてください」
「分かりました」
馬車に揺られながら、私はゆっくりと眠りに就いた。
*
馬車に揺られている途中で、目が覚めてしまった。
「シルヴィア様、もう少しで着きますよ」
「すみません。ありがとう御座いました」
体を起こし、窓から外を眺める。
王都があんなに小さく。結構離れたな。それより、アルカディア山脈が目と鼻の先まで迫っている。山賊は……いないみたい。でも、警戒しないと。
「馬車が止まった。到着した?」
「ロイ様、アルカディア山脈の麓に到着しました」
ロイ様と馬車を降りる。ここからは徒歩で向かわないといけない。
「シルヴィア様、何処に水力発電所を建設しますか?」
「水源が豊富で流れが強いところに建設します」
流れの強い場所がある。あそこが良いな。
「ロイ様、あそこに建設しましょう」
「分かりました」
これから少し山を登ることになる。準備として登山用の服装と靴を用意した。これなら厳しい環境下でも大丈夫だろう。
「そう言えば、その服装は手作りですか?」
「はい、登山用の服装です」
「良いですね。今度、服飾にも力を入れたらいかがですか?」
「考えておきます」
靴はもちろんスニーカー。動きやすくて良い。
「シルヴィア様、お手を」
「はい」
ロイ様が先導してくれている。
山の麓に川がある。もう少し上に行きたいな。
「あっ、滝が見えてきた」
滝の下なら流れが強くて水車がよく回りそうだ。あそこに建設しよう。
「ロイ様、滝の下に水力発電所を建設します」
「もう少しですね」
スレナとその部下たちが近辺の護衛を務めている。
山賊はいないみたい。でも、目を離した隙に狙われる可能性がある。油断は禁物だ。
「よし、到着したわね。では――」
水力発電所の設計図が描かれた紙を取り出し、それらを具現化させた。
滝の下に建設したことにより、安定した電力が確保できる筈。あとは発電所と送電線を連結する開閉所を作ろう。
「開閉所を建設します。離れてください」
水力発電所の近くに開閉所を併設した。あとは電線を王都まで引くのみ。
「ロイ様、王都まで電線を引きます。危険ですので離れてください」
「はい!」
最近分かったことがある。地図さえあれば遠くでも具現化できることを。でも、確認は必要だ。
「電線があんな遠くまで……。シルヴィア様、凄過ぎます」
スレナとその部下が驚いている。まあ、無理もない。
「ロイ様、水力発電所に入って確認したいことがあります。少しよろしいでしょうか?」
「発電量ですか? 一緒に行きます」
水力発電所に入って発電量を確認した。
今のところ、安定した電力を得ることができている。あとは王都に戻って変電所の数値を確認するだけだ。
「ロイ様、王都に戻りましょう」
ロイ様と山を下り始めた。
王都に建設した変電所から各住宅に電気を届けないといけない。急いで戻らないと。
「シルヴィア様、足元気を付けてください」
「はい」
スレナ達も下山している。ここで山賊が現れたら洒落にならない。
「山賊はいないみたいですね」
「一応、ヴァリアント王国の領地内なのでいないのかもしれません」
冒険者に狩られたかもしれない。まあ、その方が安心できる。
「ふぅ……、無事に下りられた」
馬車に乗って扉を閉めた。
これから王都に戻って変電所の電力量を確認しないといけない。上手くいかなかったら泣くところだ。無事成功しますように。
「シルヴィア様、戻りましょう」
「はい」
電線が王都まで続いている。その横を馬車で進み、電線に損傷がないか確認する。
「今のところ問題がないみたいですね」
「そうですね。ところで、お体の方は大丈夫ですか?」
「出発したときに休みましたので、ご覧の通りです」
「具合が悪くならないで良かった。では、電線の確認をしましょう」
馬車の窓から電線を確認する。
今のところ傷もなく綺麗だ。王都には、変電所と繋げられるような仕組みにしてある。帰り着いたら変電所に赴き、電線を繋いで電力を供給しよう。
「シルヴィア様、明日から労働者を率いて電線を埋めます。よろしいでしょうか?」
「はい、予定通りにお願いします」
アルカディア山脈の麓までは送電塔がある。そこから電線を埋めていく予定だけど、もし上手くいかなかったら送電塔を王都まで作らないといけない。
電力会社に勤めたことがないから詳しいことは分からないけど、知識はあるので間違っていなければ恐らく大丈夫だろう。
「シルヴィア様、何か不安になっていませんか?」
図星を突かれた。でも、答えなきゃ。
「実は、電線は送電塔というもので引くこともできるんです。ただ、私もこういったことは初めてで上手くいくか不安なんです」
「つまり、電線を埋めなくてもいいと?」
「はい」
予定が変更されることはよくあることだ。でも、送電塔を作ったら困ることがある。それは、電線が破損した場合だ。あんな高いところまで誰が登るのだろうか。私だったら絶対無理だ。
「シルヴィア様。あんな高いところに電線があると、切れた場合に大変になるかと」
「それが問題なのです。なので、予定通りでお願いします」
「シルヴィア様、混乱されていますね。大丈夫ですよ。予定通りにして、もし駄目なら作り直せばいいのです」
「ロイ様……」
ロイ様に尊敬の眼差しを向けた。本当にさすがだ。
「シルヴィア様、もうすぐ王都に着きます」
スレナが馬車の隣に並んで声を掛けてきた。
話をしていたらいつの間に。帰りは早いな。
「王都の門で馬車を止めよ」
「かしこまりました」
王都のすぐ隣に変電所が設けてある。あともう少しだ。
「到着しました」
「シルヴィア様、一旦降りましょう」
馬車を降りて変電所に入った。
電力の供給は一定を保っている。あとは王都全体にある電線と繋げるのみ。
「よし、繋げた」
王都全体の電力量は安定している。成功だ。
「シルヴィア様、やりましたね」
「はい!」
私はロイ様と抱き締め合って、大いなる進展を喜んだ。
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