第四章 偉業

第一話 太陽光発電システムの試用

 ロイ様と話し合った結果、まず辺境の地にある家で太陽光発電システムの試用をすることになった。


 「シルヴィア様、屋根にあるものが太陽光パネルですか?」

 「そうです。他にも必要なものがあるので、順を追って説明しますね」

 

 ある程度教えておかないと何かあったときに対応できない。ロイ様には悪いけど、私は王都に永住する気はない。理由は、クリフォード様がまた文句を言ってくるからだ。

 でも、ベネディクト国王陛下に逆らう気はない。太陽光発電システムを実際使えるか試して、生活に支障がないことが実証されれば、王都の各住宅に設置しようと考えている。

 よく考えたら、王都の人達ってタダで太陽光発電システムを使うんだよな。なんて贅沢なんだろう。


 「えーっと、これが接続箱と言って太陽光パネルからの配線をまとめて、このパワーコンディショナーに送ります」

 「すみません。いきなり分からなくなりました」

 「パワーコンディショナーが分かりませんか?」

 「はい、分かりません。何に使うものなのですか?」


 異世界人に現代社会の日本の技術を理解しろというのが間違っている。でも、理解してもらわないと何かあったときに対応できない。ロイ様、頑張れ。


 「パワーコンディショナーは、太陽光パネルで作られた直流電流を交流電流に変換する装置です。簡単に言うと、太陽光パネルで作られた電気では電化製品が使えません。なので、電化製品を使うことができる電気に変えるのです」

 「つまり、電化製品が使えるように電気の性質を変える、ということですか?」

 「その通りです」


 何だ。ちゃんと説明すれば分かるじゃないか。


 「他に分電盤や電力量計、カラーモニターがあります」

 「他にもあるのですね。分電盤とは?」

 「各コンセントに電気を送る為の装置です」


 コンセントがないと電化製品は使えない。そこは分かっているみたい。


 「電力量計は発電量を計測する装置ですよね。カラーモニターとは何ですか?」

 「発電状況や消費電力量を表示する装置です。これがないと、どれくらい発電されているのか分かりません」

 「全て必要な装置なのですね。分かりました」


 ロイ様がメモ用紙に今まで教えたことを書き記している。真面目なのは分かるけど、全てを理解するのは無理がある。混乱させないように教えよう。


 「あの、シルヴィア様。これは何ですか?」


 蓄電池の説明を忘れていた。質問に答えよう。


 「これは蓄電池というもので、電気を蓄えるものです」

 「電気を蓄える……。発電されないときは、蓄電池の電気を使うのですか?」

 「はい、その通りです。発電されないときは、蓄電池から電気を供給します」

 

 今まで説明した全ての装置がこの辺境の地の家に設置されている。さて、発電量はどうだろう。


 「天気が良いので発電量は良好ですね」

 

 今のところ、雨期になっていないので発電量は良好だ。でも、雨期に入って天候が崩れたら発電量は減る。蓄電池だけではまかなえないな。


 「天気が悪くなると発電量が減りますよね? その対策はどうされますか?」

 「その為の水力発電と風力発電です。三拠点の発電所を設けることで対応できると思います」


 無理とか言っている場合じゃない。やれることをやってこその大役だ。


 「もしかして、河川や山から配線を引くのですか?」

 「そうしないと対応できませんよ」


 もうこれは国家総出でしないと駄目なレベルだ。ロイ様の人脈がどれくらいあるのか分からない。もっと人が欲しいな。


 「ロイ様、人手が欲しいです。誰か働きたい方はいらっしゃいますか?」

 「働き手ですか? 仕事が欲しいと思っている人間はたくさんいると思いますが……」

 「では、募集しませんか? 結構、大掛かりな仕事になると思いますので」

 

 ロイ様が考えている。

 仕事をしてもらったら給料を払わないといけない。その賃金は何処から出すか、が問題か。ベネディクト国王陛下が出してくれないかな。


 「……募集するのは良いのですが、人件費は誰が出すのですか?」

 「……ロイ様、お願いします。ベネディクト国王陛下に頼んでいただけませんか?」


 人生の中で一番甘えている。だって、お父様に頼めないもん。


 「分かりました。後日、父上に相談してみます」

 「ありがとう御座います!」


 この辺境の地で上手くいったら、次はグランヴェル領、その次が王都だ。

 上手くいきますように。


 「シルヴィア様、少し休憩しませんか? 頭が痛いです」

 「それはいけませんね。リビングでお休みください」


 サラがロイ様を誘導している。ナイスだ、サラ。


 「シルヴィア様がいかに天才か分かりました。何でそこまでご存知なのですか?」

 「勉強をするのが好きなので、自然と頭から出てくるのですよ」

 「勉強ですか……。僕には無理だ」


 あれ? ロイ様って勉強が嫌いなのかな?


 「ロイ様はお勉強されるのが苦手ですか?」

 「はい、苦手です。でも、頭に浮かぶものがあれば理解できます」

 

 想像力が物を言うのか。イメージって大事だから、そこを上手く使えるようになれば理解できるってこと?

 なら、図面なら分かる?

 

 「ロイ様、図面を使って説明すれば分かりますか?」

 「多分わかると思います」

 

 あとで図面を使ってもう一度説明しよう。そうすれば、もっと理解してくれる筈だ。

 

 「シルヴィア様、ロイ様が辛そうです」

 「ごめんなさい。お話はまた後にしましょう」


 ロイ様がキンキンに冷えた麦茶を飲んでいる。

 この環境が当たり前だと思っていたけど、異世界で実際に作ってみて思った。この世界は文明の発展が遅れている。やはり、私のような人間が文明を発展させるしかないのか。創造主様は何をお考えになって私をこの世界に転生させたんだろう。もしかして、こうなることを分かっておられた?

 もしそうなら、この世界を豊かにしないといけない。戦争がなく、穏やかな世界。そうなることを私は望んでいる。

 よし、やってやるか。


 「シルヴィア様がやる気に満ちている」

 「シルヴィア様、無理はなさらないでくださいね」

 「うん」


 サラからキンキンに冷えた麦茶をもらい、私は喉の渇きが癒されるまで飲んだ。

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